「こんにちは」
「やぁ、」
目の前で爽やかな笑顔を振りまく彼はアイオロスさん。
見た目が若い彼が、アイオリアさんのお兄さんだと知ったのは、つい最近の事。
3:手を繋いで歩きませんか?
「これから鍛錬ですか?」
「ああ、星矢達に頼まれてな」
ランニングでもしていたのか、首に巻いたタオルで汗を拭きながら話す姿は、好青年と形容するのがぴったり。先日までアイオロスさんは出張していたらしく、初めて見た時はなんて似ているのだろうと思った。瓜二つ……とまではいかないけれど、外見も中身も良く似ている。強いて言えば、アイオロスさんの方が融通がきくかもしれない。
そんな彼を見た後で、アイオリアさんに「良く似た弟さんですね」と言ってしまったのは仕方ないだろう。問題発言の際にたまたま居合わせたミロさんには、ものすごく笑われたけど。そこでようやく、アイオロスさんの方がお兄さんなのだと知ったのだ。
「も一緒にやるか?」
「一緒に……って、鍛錬ですか? それなら遠慮しときます。絶対筋肉痛になりそうだし」
なにより貴方達の訓練に巻き込まれたくない。本音を隠して立前を前面に押し出せば、そうか。と快活に笑うから、こちらの良心が痛んでしまう。
この人は、疑う。という事をしないのだろうか?
「アイオロスさん、一つ聞いてもいいですか?」
「ん? なんだい」
年齢的に言えば、アイオロスさんはサガさん達と同い年だという。なのに、何故彼だけ二十代前のような姿なのだろうか? シオン君と似たようなものなのかな? と推測はしてみたが、本人に聞いてみるのが一番てっとり早く確実だと思い、思い切って質問をぶつけてみる。
「ああ、それはね。俺が死んだ時期が早いからじゃないかな?」
「へ?」
アイオロスさんが言うには、亡くなった時期が他の人よりも早いせいで、今のような外見になっているのではないか、という。あっさりと14で死んだ。と言われても、こっちが困ってしまうのだが、その辺は分かってくれてるんだろうか。
「でも、お兄さんなんですよね……」
「うん?」
自分より年下の兄って、どんな気分なんだろう?
複雑な人間関係に頭を悩ませれば、軽く額をこづかれた。
「不幸が逃げるぞ、」
眉間に寄った皺を指し、アイオロスさんは笑う。
「私はじゅーぶん幸せなんで、大丈夫です」
皮肉混じりに言ってみれば、本気で嬉しがってくれるから、やるせなくなってしまう。なんでアイオロスさんてこんなにいい人なんだろう。この兄にして、あの弟有り。って感じ。
「さーってアイツらをしごいてやるか」
「大変そう……」
「なんだったらも」
「私はやりませんってば!」
「ははは、遠慮しなくて良いんだぞ」
「これっぽっちもしてませんので、お気遣いなく!」
以前何かの時に、ミロさんがアイオロスさんとアイオリアさんは、筋肉馬鹿だ。と笑って罵っていたのを思い出した。今なら……その気持ちに同感出来る。
見た目はこんなだけど、他の人からはものすごく信頼されてるし、決断力とかその他の点からみても、アイオロスさんはやはりお兄さんなんだな、と思う。
「アイオロスさん」
「ん?」
前を歩くアイオロスさんの手を取れば、微かに驚いたような表情。
振り払われなかったのを良いことに、しっかりと握れば、同じ強さが返ってくる。
「手、繋いでも?」
「もう繋いでるだろ」
苦笑混じりに返される答えに、やっぱお兄さんだなぁ。としみじみ思う。
そんな私の考えを知ってか知らずか「妹がいたらみたいな感じかなぁ」と間延びした声が聞こえたので、なんとなく嬉しくなった。
「星矢君達、もう来てますかね?」
「呼び出したのは星矢達の方だからな、いると思うよ」
「じゃ、早くいかないと」
「そうだな」
聞きたくなった疑問を呑み込んで、別の言葉を口にすれば遙か前方に手を振る人影。
本当は……私とアイオリアさんとどっちが年上に見えるんですか? って聞きたかったけど、また今度でいっか。
END
この作品はyue様に捧げさせて頂きます。
企画へのご参加、有り難うございました!
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