遠坂邸へ戻る道すがら、不思議な気配を察知しギルガメッシュは足を止めた。甘い果実のような、極上のワインのような、美味しそうな香りがギルガメッシュの鼻腔を擽る。
「……」
 己の気を引いた原因を確かめるべく、ギルガメッシュは方向を変え香りのする方へと歩みを向けた。
「ふむ」
 とある洋館の前に立ちギルガメッシュは腕を組む。見たところ廃館となっているようだが、誘うような香りはこの洋館から漏れ出ているらしい。
「フン、面白い」
 現状を鼻で笑い、ギルガメッシュは古びた館のドアを蹴り開けた。元より鍵は掛かっていなかったのか、すんなりと空いたドアに眉根を寄せ、光のない室内へと視線を向ける。
「……」
 屋根のある室内に存在する水滴は、ここに水を纏った存在がいる事実を示唆する。館に入った事により更に濃厚になった香りを振り払うよう片手を翻し、元となる現象を確かめるべく廊下を踏みしめた。
 暗い廊下を歩き階段を上ると、いくつか並んでいる扉の一つが半開きになっているのに気が付いた。どうやら原因があるのはあの部屋だと推測し、大股で部屋へと向かう。
?」
 扉の向こうに在った原因にギルガメッシュは思わず一人の名前を呟いていた。
白い女が床に倒れている。見た目の色こそ違うが、纏う雰囲気がだとギルガメッシュに訴える。
「何を寝ておる」
 這いつくばっているの隣で仁王立ちし、ギルガメッシュは答えない女を見下ろした。真っ白な髪に真っ白な肌。息苦しいのか、横たわった体は早い上下運動を繰り返している。
「我の手を煩わせるな、愚か者」
 呟く言葉とは裏腹に優しい手付きでを腕に抱え、部屋の奥にあるベッドの上に横たえた。女の体は熱く、触れているだけでも魔力が流れ込んでくる。通常有り得ない奇異な状況にギルガメッシュは片眉を上げ、と今一度女の名を口にした。
「フン」
 答えぬ女の前髪を梳き、横に流す。額に浮かんだ汗に唇を寄せれば、極上の魔力がギルガメッシュの舌の上で踊った。
「馬鹿者が」
 再び落とした暴言に女の眉根が寄る。何か言いたげな唇を塞ぎ舌を差し込めば、それだけで今まで供給されていた魔力をあっさり上回るほどの甘露がギルガメッシュの内部を満たす。
 目の前に横たわるの不調は分かっている。十中八九キャスターに汚染された水を全身に浴び、今まで押さえ込んでいた力のバランスが崩れたのだろう。
「財のメンテナンスも、王の務めか」
 誰に言うまでもなく呟いて、ギルガメッシュはが横たわる寝台へ乗り上げた。

 

 一つの記録がある。
 それはギルガメッシュという存在が、座に召し上げられる前の記憶。
 枯れ果てた大地の果てに見つけたのは神秘の原石。特異な環境において呪われた存在が、どのような末路を辿るのか興味が沸き、一人の少女を見逃した。
 その後長い人生の中で少女と遇うことはなかったが、ギルガメッシュはそれでいいとすら思っていた。全てを手に入れた王が、敢えて財に加えることを見送った唯一の存在。それが、何の因果かサーヴァントとして召還された冬木の地にて出会う事になろうとは。
 遠坂時臣により召還されたつまらぬ地で、寵愛に足るモノを探すべく夜を蹂躙していた際、ギルガメッシュは一人の女を視野に捕らえた。
 女と視線が絡んだ瞬間、本能が歓喜の声を上げる。あれは、あの時の女だと。姿形こそ変わっていたけれど、ギルガメッシュの刻んだ色が魂に宿っている。それを確かめるべく王自ら足を運び、女の名を耳にしたことによって確信した。

 己が与えた音を愛しげに呟き、汗の浮き出る首筋に唇を寄せる。
 神秘の原石、呪われた存在。醜く歪み、それでもなお存在し続ける醜悪さが好ましい。
「歓喜するがいいぞ。この我が、直々に快楽を与えてやるのだ」
 目の前にある白い首に噛み痕を残すが、数分もしない内に赤味は消え何事もなかったかのように白い咽が苦しげな音を出す。
「愚かな女よ」
 だが、愚かさ故に愛しい。なんといっても、悠久といって差し支えのない年月を、この女は「生きて」いるのだから。
 たった数分の邂逅と意地の為に、理を外れた存在。そんな業の塊のような女を、どうして愛さぜずにいられようか。
 浮き出る汗を拭うよう舌を這わし、邪魔なボタンを外していく。眼下に晒された白い肢体に目を細め、ギルガメッシュは早い上下運動を繰り返す胸の頂へと唇を寄せた。
「……はっ……んッ」
 ギルガメッシュの行動に呼応するよう、頭上から苦しげな息が降ってくる。
「啼け」
 楽器のように音を漏らす体に触れながら、魔力を吸収していく。際限なく溢れてくる魔力に感嘆の息を漏らしながら、ギルガメッシュはを追い詰めるべく手指を動かす。
 片手で捏ねるように胸を揉みしだき、苦しげに開いている下唇を柔く噛む。汗や唾液と言った体液だけでも遠坂時臣とは桁違いの魔力が流れ込んでくるのだ。完全にパスを繋げたら、それはどれほどの快楽になるのだろうか。無意識で舌なめずりをし、ギルガメッシュは空いている方の手をの下肢へと伸ばした。
「ンッ、アァ……ッ」
 僅かに埋めた指先が痛いのか、が苦しげに眉根を寄せる。
「恐れることなどあるまい」
 言い聞かせるよう耳元に声を落とし、埋めた指を更に中へと押し込む。
「ハッ……」
 一度も男を受け入れたことのない内壁は、ギルガメッシュの指を押し返さんと収縮を繰り返す。その行為に満足気に目を細め、ギルガメッシュはの咥内を蹂躙した。
「お前が正気だったら、な」
 面白いと感じ、自分が欲した存在は誰の色に染まることなく生き続けていた。嘘のような現実が存在する事実がギルガメッシュの飢えを満たすが、それと共に惜しい、という感情をギルガメッシュに与える。
 快楽か、苦しさか。どちらとも付かぬ表情で眉根を寄せる。正気でない彼女が今晩の事を覚えている可能性はゼロに近い。ギルガメッシュがを抱いたとしても、無意識状態である彼女の体は再生し行為の名残を消し去るだろう。
 だが、それでも。目の前に投げ出された財宝を、王が見逃す理由はない。
「我が与える栄誉を存分に受け、啼くが良い!」
 邪悪な笑みを貼り付けて、ギルガメッシュは怒張した自身をの中へ埋め込んだ。
「ア、アァッ――ッ!」
 身を裂くような衝撃にの咽から悲鳴のような音が漏れるが、それでも女の目は開かない。僅かな不満に息を吐き、衝撃に震える体を押さえ込むよう根本まで埋め込む。
「はっ、んあ、っ」
 異物が這入っているのが苦しいのか、は荒い息をつきギルガメッシュを食いちぎらんばかりに締め付けた。
「無意識とは、怖ろしいものよな」
 強烈な締め付けに眉根を寄せ、ゆっくりと律動を開始すればコツリ、と最奥に当たる感覚。
「っ、は――ッ」
 繋がった部分から流れ込んでくる魔力は、ギルガメッシュの神経を快楽で満たす。魔力そのものに触れているような直接的な快楽は、体を繋げる行為よりも数段気持ちが良い。
 淫靡な水音を静かな室内に響かせ、ギルガメッシュは女を貪り喰う。暗闇の中で白い肢体に浮かぶ水分がキラキラと輝き、ギルガメッシュの眼を楽しませた。

 無意識で漏れた音は甘く、ギルガメッシュは一瞬行為を止め自嘲を漏らす。
「フッ、クッ、フハハッ! 我を捕らえるか、よ!」
 存在全てでギルガメッシュという存在を束縛する。無意識の行為とはいえ、末怖ろしい女だとギルガメッシュは笑った。主導権はこちらにあるのだと眼下の存在にしらしめるよう、先程とは比べものにならない力で女を蹂躙する。ビクビクと震える内部に女の限界が近いのだと知り、ギルガメッシュは律動を早めた。
「――ッ!!」
 声ならない音がの口から漏れると同時に、今までにない強さで陰茎が締め付けられる。
「フッ――、納めよッ!」
 無意識の女に刻み込んでやりたいと注ぎ込んだ精に、の白い体が小刻みに震えた。
「はっ……」
 カチリ、と何かが繋がる感覚と同時に、膨大な力の本流がギルガメッシュに襲いかかる。こんなものを押さえ込んでいるのが馬鹿なのだと、眩暈に似た感覚に耐えるようギルガメッシュは歯を食いしばった。人の身に余る力に犯されてまで、女が求めたものは一体何なのか。
 女の自尊心か、それとも――。
 脳裏を過ぎった考えを妄想だと一蹴し、ギルガメッシュは再度女を喰らいにかかる。
「疾く思い出せ。そして――我を、見よ」
 決して開かない眼に口付けを落とし、どこか満たされない想いを抱えギルガメッシュはを抱く。次があるならば合意の上で犯してやりたいと、王らしからぬ考えを侍らせながら。

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