青い空、白い雲。秋晴れと称するに相応しい景色をバックに繰り広げられるのは、みっともない大人達の意地の張り合い。 一人が金に物を言わせれば、一人はアイテムの性能を最大限に生かした戦略を披露する。そんな二人を尻目に完全投げやりモードのチンピラが煙草をふかし……。 「って、なんでが居るんだよ」 三人の中心地点になるような場所で相変わらずふわふわと微笑みながら、姉である存在が大人げない英霊達を応援している。 異様な光景の中にありながらも違和感を感じさせないのは、彼女自身も異端であるからなのだろうか。 「今日はまた随分賑やかなんだな」 「むさっ苦しい野郎ばかりじゃ色気がねぇからな」 「誘ったのはアンタか?」 「いーや」 つまらなそうに竿から片手を離し、最奥で子供達を侍らせながらキンキラと眩しく輝いている存在をランサーは指さした。 「ああ、なるほど」 せめて誘ったのがランサーであればこんな重い気分にならないで済むのに。心の中で呟きながら白いコートを纏った後ろ姿を睨み付ける。元々よく分からない人ではあったが、改めての好みは理解し難いと胸焼けに似た気持ちを無理矢理呑み込んだ。何故あの男なのか。考えたところで当事者以外に分かるはずもないが、二人が共にいるのを目にするとつい思ってしまう。なんでアレなのさ。 「ま、スパっと諦めるんだな坊主」 「なにが」 チンピラもどきの英霊はニヤニヤと意味深な笑みを浮かべながら、「張り合うだけ無駄だぜ」と老成しきった者の表情で苦笑を漏らした。 「運命なんてモンが存在するなら、それはアイツ等の為にあるんだろうよ」 「……珍しいな」 中立中庸なケルトの英霊から、乙女ちっくな発言が出てくるとは非常に珍しい。明日は雨かと空を見上げるが、残念ながら知り得る明日はいつも快晴だ。 「アンタは何を知ってるんだ?」 「さぁて」 英霊と呼ばれる存在達にどんな特殊能力が付与されているのか知らないが、仮にも一般人である存在の過去まで見抜く力は持ち合わせているまい。 ただ気になるのは、以前がサーヴァントに近しい存在だと称されたことだ。事実、彼女には魔術師としてではなく、もっと根本的に自分たちとは違う力が備わっているらしい。 「気になるなら本人に聞いてみたらどうだ?」 「出来れば苦労してない」 「だろうな」 一向に当たりの来ない竿を支えながらランサーはつまらなそうに欠伸を漏らす。 「こっからは独り言だ」 「え?」 じっと海を見つめながら、思考を纏めるようランサーは口を閉じ、「嬢ちゃんは」と語り始める。 「ありゃ俺達なんかよりずっと厄介な存在だぜ。なんで、とかどうして、なんて聞くなよ? ただ、分かんだよ。人である以上触れることの出来ない絶対領域に在るんだってことが、さ。だからって訳じゃねーが、つり合いがとれるのは人ならざる者だけなんだろうよ」 それこそあの黄金の王のように。誘導されるよう視線を移動し、改めて金の存在を視認する。遠近感こそあれど、立っている位置からは丁度二人が並んでいるように見える。 馬鹿笑いを響かせる金色を包み込むよう揺れる色が、本当は白色だと知っている。成る程、悔しいがたしかにランサーの言い分にも一理ある。 「あながち世界が敵ってのは間違ってねーんだろうな」訳の分からない言葉で締めくくり、ランサーは再び口を閉ざした。 「これ以上居ても収穫はないか」 世間話に付き合わせて悪かったと当たりのこない英霊に形だけの謝罪をし、港を後にしようと踵を返せば背後から「士郎」と呼び止める音が響く。 「、もういいのか?」 「十二分に応援はしたしね。これで安泰よ」 の言葉に引っかかりを覚え、言葉の意味を問えば「夕飯」と即物的な単語が返ってくる。 「士郎、今日は魚尽くしよ」 「あ、うん」 「お醤油足りてたかしら?」 「まだあったとは思うけど……念のため買い足しておくか?」 「そうねぇ。どうせまだ掛かるでしょうし」 ちらりと背後の英霊達を見遣り、は「行こうか」と片手を差し出してくる。 「なんだよ」 「たまにはいいじゃない。姉弟で手を繋いだって」 「そんな歳じゃないんだけどなぁ」 「まぁまぁ、おねーさまの気紛れだと思って、ほら」 触れた手は柔らかく、同じ姓を抱いているのにどきりとする。 ランサー曰く、英霊よりも厄介な存在であるは見かけで判断すれば普通の女性だ。 「なぁ」 「んー?」 そういえば、と改めて思う。人はある一定以上の歳をとると見かけが変わりづらいと言われているが、は出会った時から十年という時を経てもなんら変わらない。 あの日、真っ赤に染まった世界で自分を見つけてくれた存在達。黒い影の背後に現れた存在は、暖かみのある太陽の色を有していて死の淵にありながらも穏やかな気持ちになれたのを覚えている。今思えば、あれは炎に照らされた彼女の地毛だったのだろうが……。それはもう、どうでもいいことだ。 「ムニエルと蒲焼きどっちがいい?」 「! 蒲焼き、蒲焼き食べたい!!」 考えているのと全く別の言葉を吐き出し、隣で楽し気な空気を撒き散らすを見つめる。 昔は見上げてばかりだったのに、いつの間にか視線が下がるようになってたんだなぁ、とか。 「士郎、ついでだから煮付けも作ってよ」 「りょーかい。てかさ、一つ聞いて良いか?」 「なぁに?」 夕飯の献立に思いを馳せているのか、斜め上方向を見上げならが指折り何かを数える。 「普段港なんて来ないだろ? どんな気紛れだったのかなって」 「あぁ、そんなこと」 ランサーからギルガメッシュの連れだと聞いてはいるが、本人の口から確かめたい。 「今朝冷蔵庫開けたら中身空っぽだったのよ。お給料日まではもう少し日にちがあるし、ちょっと節約しようかなって」 「……それで魚?」 「原価ゼロ円って素敵よね」 以前に比べて食費が掛かっているのはたしかだが、それほどまでに我が家の家計は火の車なのだろうか。お金の管理は基本に任せているし、自分もバイトをすべきだろうか。 「間違えないでね、士郎。別に金銭が厳しい訳じゃないの。ただ、余ってる労働力を放置しておくのは勿体ないでしょ?」 「なぁ、それって……」 金と赤の英霊を脳裏に浮かべ言葉を濁すと、ご名答とばかりにが片目を瞑る。 「昔から言うでしょう? なんとかとハサミは使いよう、ってね」 ふふ、と笑うを前に、やっぱり一番強かなのはかもしれないと青い英霊に同意した。 |