「なーんか御免ねぇ……付き合わせちゃって。肩身狭いでしょ?」
女性比率の多いカフェの中で一際異彩を放つ青い髪の男。周囲から覗き見紛いの視線が送られるのは、純粋に見た目が格好良いからだと分かっているが、何故当人のナンパ率が可哀想な状態なのかは謎である。金ぴか王と違ってランサーさんは口を開いても……時々デリカシーの無い斜め上の発言をする場合が……多めだが、それを差し引いてもいい男であることに変わりないのに。やはり普段の服装に問題があるのだろうか?
「ランサーさんも普通の格好してればアレなのにねぇ」
「ん? 何か言ったか嬢ちゃん?」
「いや、ガッカリスキルのランクはいくつなのかなぁとか考えてた訳じゃないですよ、うん」
「はぁ? んだよそりゃ……」
苦笑しながらお茶を飲む姿も格好良い。うむ、やはりランサーさんには排除しようのないガッカリスキルが搭載されているとしか思えない。
「てかよ、聞いてもいいか?」
「なに?」
運ばれたケーキに舌鼓を打ちながら、眼前の青い英霊に視線を合わせる。
「なんで俺なんだ?」
「あぁ」
女性ばかりがいるカフェにランサーさんを連行してきたのには訳がある。といっても、元を正せば消去法なのだが……それは彼の為に言わないでおこう。
「ここ、最近一押しのデートスポットなんだって。お茶もスイーツも本格的らしくて、士郎にオススメする前に見分しておこうかなぁって」
「で、俺か?」
「うんうん。ほら、ランサーさんは色んな所でバイトもしてるし、舌も肥えてるでしょ?」
「味なら赤い兄チャンのが良かったんじゃねぇの?」
「それはそれ、これはこれ、よ」
士郎と犬猿の仲であるアーチャーさんを下見に連れてきたとあっては、実際勧めた時に何を言われるか分かったものではない。その点、裏表も嫌味もないランサーさんなら安心というわけだ。
「でお味の方は如何?」
「美味いぜ」
「雰囲気も……なかなか良いわよね」
「坊主にはちっと早ぇ気もすっけどな」
「そう?」
静かなジャズが流れる店内は居心地良いと思うが……言われてみれば士郎のイメージには少しばかり早い気がしなくもない。ただ、士郎が誰を選ぶのかしらないが、女性はこういった甘やかな雰囲気は好きだろう。
「そういえば、ランサーさんはケーキ食べないの?」
「俺はそこまで甘いモンが好きってわけでもねーからな」
「美味しいのに、勿体ない」
ブランデーの効いたショコラは甘すぎず苦すぎず、後味もさっぱり気味で食べやすい。これほど美味しいショコラを食べたのも久しぶりだ。
「ま、俺は俺で楽しんでっから嬢ちゃんは気にすんなよ」
「……楽しんでるって、女の人鑑賞してるってこと?」
先程から熱烈な視線を送ってくる女の人達に、ランサーさんは手を振り返している。こういうところが女運のなさ……というか、モテる男のなんとやら、なのだろうかとしみじみ思いながら美味しいケーキを切り崩す作業に戻る。
「なんだなんだ、妬いてんのか?」
ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべるランサーさんにため息を送り、「違います」と持っていたフォークの先を向けた。
「軽口ばかり叩いていると、痛い目にあいますよ? クーちゃん」
「……なっ!?」
一度も呼んだことの無い真名を口にし、空いた口を塞ぐよう大きめのショコラをランサーさんの口に押し込む。
「むぐっ!」
「どう? 美味しいでしょ?」
少しづつ食べるなら申し分ない味だが、濃い味で水分の少ないケーキは大きな塊を口に入れると非常に飲み込みづらい。私のささやかな嫌がらせに眉根を寄せつつ、咀嚼し続けるランサーさんを愛でる。
口いっぱいに物を頬張っていても、いい男はいい男である。
「……やってくれんじゃん? 」
「今度はちゃんと、あーん、してあげようか?」
「へぇ? 随分とサービスしてくれるのな」
「たまには……ね?」
先程とは違い一口サイズのケーキを切り分け、ランサーさんの前に持って行く。
どこか淫靡な色を宿す赤い眼を正面から見据え……不意に違う方向から感じた視線に意識を向けた。
「あー……」
「ん……? げぇっ!」
店の外で満面の笑みを浮かべる衛宮家の住人達。物騒な気配に怖じ気づいてか、普段存在するハズの通行人はおらず、店の中に居たお嬢さん方もいつの間にか会計を済ませている始末。
「流石、と感心しておくべきなのかしら……」
「……なにがだよ」
「いや、幸運値の低さを、ね?」
カランカランと鳴るベルは悪夢の幕開けを告げる音か、はたまた一時の夢の終わりを告げる音か。
どちらにせよ青い英霊様に残されている道は一本しかない。
「まぁ、その……ごめんなさい。頑張って?」
「すっげぇ他人事……」
一気に重くなった空気、這い寄る死亡フラグ。
不幸の英霊、ランサーの未来は如何に。
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