呼ばれた音に違和感を感じ振り返る。
「……は?」
 奇想天外摩訶不思議。奇天烈な単語ばかりが脳内を圧迫し、胸焼けに似た感覚に陥った。何をどうしてこうなった。原因の追及をしたいと思うが、その前に逃亡したいと本能が騒ぎ立てる。
「え、っと……ギルガメッシュ?」
「はい」
「なんだ」
 二つの人間から発せられる二つの音がもたらしてくれるのは眩暈のみで、ふらりと傾きそうになる体を片手で支える。
「大丈夫ですか? お姉さん」
「あ、うん……ちょっとだけ刺激が強かったかなぁ、なんて」
 優しい言葉をかけてくれるのは……小さなギルガメッシュ。
「この程度でだらしないぞ」
「はぁ、すみません……?」
 不遜な態度は大きなギルガメッシュ。
 な、は、ず、な、の、に。
「……どうして貴方達は外見と中身が一致してないの!?」
 私でなくとも声を荒げただろう事態に、目の前の英雄王二人は揃って首を傾げる。こんなところでシンクロするくらいなら、中身を戻すことから始めてくれ。
、怒ると血圧が上がりますよ」
 昔誰かがギルガメッシュは子供の頃の性格を保ったまま大人になるべきだと言っていたが、実際目の当たりにするとこれほど気持ちが悪いものはない。成年体の姿で気遣いをみせるギルガメッシュなんて……悪夢以外の何ものでもないと教えてあげたい。
「人とは軟弱よな。せいぜい潰えぬよう気を割くことだ」
「ご忠告痛み入ります……」
 子供の姿でいつもの我様モードのギルガメッシュ。まだこちらの方が衝撃が少ないと思えてしまうのは、私が成年体のギルガメッシュに慣れているせいだろうか? だとしても、本当に笑えない。これが笑い話と一笑に付してしまえればどんなに楽か。
「ちょっと聞いてもいいかしら……。その……ギルガメッシュは、いつから分裂したの? また変な薬でも飲んだ?」
 私の言葉に二人は一瞬視線を合わせすぐに逸らす。そういえば、ギルガメッシュが嫌っているものの中に自分という存在があったような気がするなぁ、とぼんやり考えながら険悪な空気を撒き散らす二人の英雄王から視線を外した。
「僕は元々ここにいました。お姉さんだって昨日一緒にご飯食べたじゃないですか。増えたというならば、それはあっちの方でしょうね」
「稚児の弁など鵜呑みにするでないぞ、
 ……稚児って貴方自身の事でしょうに。喉元まで迫り上がってきた言葉を無理矢理呑み込んで、ため息に変換する。
「ごめん、私じゃどうにも出来ない。というか、今後の対処方すら浮かんでこない」
、本音がだだ漏れです」
 ふふふ、と笑う成年体。
「お前の考えが及ぶ範囲でどうにかなるならば、疾うの昔に我がどうにかしておるわ」
「ごもっともです、はい」
 いがみ合う二人を前にし、私に出来ることなど一つもない。力勝負に発展しないだけまだマシだとは思うが ……本当にどうすればいいというのか。
 抜けるような青空と、温かな陽射し。絶好の昼寝日和だというのに、室内に立ち込めるのは絶対零度の空気と静電気のような肌を刺す痛み。
 今という時間軸が歪なものであることは理解している。さながら、なんでもありなお祭り状態ということも分かってはいるが……。
「流石にこれはやりすぎでしょー!!」
 向ける先のない怒りを叫び、届かぬと分かっていながら、うっすらと残る月に向かって卓上の湯飲みを投げつけた。

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