秋というのは感傷的になる季節なのだと、誰かが言っていた。
たしかに、ノスタルジックな町並みは感性を揺さぶるものだとは思う。
「それ以上でも以下でもないけれど」
見慣れた風景、見慣れた光景。別段目新しいと感じることもなく、一定のリズムを刻みながら過ぎ去っていく時間という存在。
屋台で買った焼き芋が着実に減っていく様をぼんやり見つめながら、私は何をしているのかと己の行動を振り返る。
なんとなく高台に立ち寄ってしまったせいで、セイバーさんに買ったお土産は手元を離れ傍若無人な金ぴかに美味しく頂かれてしまった。王様曰く庶民の味を知るのも王の努めらしいが、私から言わせればたんなる横取りだ。
「焼き芋はお眼鏡にかなったのかしら」
「悪くないぞ」
「素直に美味しいって言えばいいのに」
変なところで意固地なギルガメッシュに苦笑を漏らし、空になった紙袋を受け取る。
「口の横、付いてる」
「些細なことを気にするでない」
「一応気にしておきましょうよ、貴方王様なんでしょ」
「の言であれば、考慮してやっても良い」
「はいはい、ありがとうございます」
十年近くの空白を経ても変わらぬ容姿、変わらぬ性格。以前と一つ違うことがあるとすれば、人としての肉体を有していることだろうか。
「あとは、少しだけお馬鹿になった?」
「何か言ったか」
「焼き芋のお代わりはありませんよ、と」
慢心せずして何が王か、と周囲を憚らず高笑いを響かす様は他人のフリをしたくなる事請け合いなのに、人を惹き付けるカリスマ性が視線を逸らすことを許さない。
低俗だと嘲笑いながら娯楽を楽しみ、弱き存在の業を愛でる。相反しているように見えながらも一貫性を感じさせる趣味趣向は、薄氷の上を渡るような不安定さの上に成り立っているような気がして否応でも視線を奪う。
そんなギルガメッシュに惹かれてしまう自分自身が手に追えないと苦笑を漏らし、こんな気持ちになるのは秋という季節のせいだと責任転嫁することにした。
「何を願い、何を求む? 」
唐突に向けられた音に焦点を定め思考を止める。絶対の覇者たる王。他意を許さぬ無言の圧力。己が求める回答以外は認めぬと視線で訴えてくる御仁に、どのような答えを返そうか。彼の意に沿う答えを提示するか、彼の機嫌を損ねるものをあえて選んでみるか。代わり映えのない時間内において何を選んだとしても当事者でない私達の解答に意味はなく、そういうやりとりがあったという記録の一ページに収納されるだけなのだから。
「曖昧な問いね」
僅かに漏れ出た白い息を繰り返す時間内に溶かし「そうね」と曖昧を区切る音を口にすると、先を促すように冷えた風が頬を撫で去っていく。
「多分私は……ただ、欲しいモノを手に入れたいだけなのよ」
だから、と言葉を切り黄昏れ色に染まる町並みに視線を落とせば、郷愁に似た想いが重苦しく腹の底に溜まる錯覚を得た。
「そういう点では似ているのかもね」
サーヴァントとマスターの間にはなんらかの共通点があるという。なれば、私とギルガメッシュの間に見いだすものはソレなのだろう。
欲しいと考え、手に入ると疑わない。
強欲で傲慢でフォローのしようがないほどの最低な性格に口端を上げ、近い位置に立つ長身を見上げる。淡い陽光をはね除け輝く金糸に、朱金にも見える瞳。
「くだらん」
つまらないと鼻を鳴らしフェンスに寄りかかるギルガメッシュ。猫背になったことにより少しだけ近くなった目線に両目を眇め、彼の輪郭を辿るよう宙を指先でなぞる。
ぐるぐると回り続ける感情の行き先は現在進行形で迷走中だし、なにより自らを王と公言する輩に対して色々求める方が無粋というもの。
「」
向けられた音に動きを止め逆光を受ける存在を正面から見据えると、ギルガメッシュを畏怖するかのように熟れた色の太陽が地平線へと沈んでいく。
美しいグラデーションから切り離されたような白い月が見えないのが少しだけ残念だと考えている内に太陽は姿を消し、選手交代だと自己主張を始めた人工光に視線を移した私を嘲笑うかのよう、ギルガメッシュは止めの一言を口にした。
「諦めろ」
一言の中に様々な意味合いを有する言葉をどう受け止めるか思案する私を前に、絶対の覇者は綺麗な月を口元に浮かべ嗤った。 |