「寒い……」
遮るものがない平原では、降り注ぐ太陽だけが恵み。
エアコンのないこの時代に、快適さを求めるのは少しばかり無理があるけど、せめてホッカイロくらいは欲しかった。
「そうでござるな」
隣を歩く見た目からして寒々しいこの人に、女心を汲んでくれ、という方が無理なのかもしれないけれど。これが佐助さんとか政宗さんだったら、少しは違うんだろうなぁ……とぼんやり考えれば、何故か無性におかしくなった。
「殿? どうかなされたか?」
「いいえ、なにも?」
戦場以外ではからっきし。と嘆いていたのは部下である佐助さんだったか。
「幸村さん、寒くないですか?」
予想の出来る答えを投げかけてみれば、案の定返ってくるのは否定の言葉。素肌に皮ジャケットなんて真冬に見る格好ではないのに、当人は気にした素振りもない。武人は自らの体温管理すら出来るのだろうか? それとも、普段から燃えた槍とか振り回しているから、暑さとか寒さには強いんだろうか?
「指先とか感覚なくて……寒すぎですよ、ここ」
「それだけ着ていて、まだ寒いと?」
「当たり前です!」
粉雪舞う中、何が悲しくて買い出しなど行かねばならないのだ。
しかも幸村さんの甘味。
「早く買って帰りましょうよー」
「ううむ、某は殿と一緒したかっただけなのだが……悪い事をしてしまったな」
言われた言葉に、息が詰まった。
時々幸村さんは思いもよらぬ言葉を投げてくる時がある。本人に自覚がない、というのが一番手に負えない訳だけど。
「……私だって、偶には外にでて買い物くらい行きたいですよ」
「殿」
「で、も。長時間は辛いので、次のお店で最後にして帰りましょう!」
「あい分かった!」
両手で抱えきれない程の甘味を買い込んで、あの体型を維持しているのが羨ましい。きっと燃える男はカロリー消費も激しいのだろう。
しかし……。
「アイス食べたいなぁ……」
「あいす?」
真っ白な雪原を目にして思い出すのは、ここには無い現代の甘味。
あ、でもかき氷ならこの世界でも出来るのかな?
「西洋の方の冷たい甘味で、アイスクリームというのがあるんですよ」
「ほう」
「似た感じのものといえば、かき氷かなぁ」
バニラや、抹茶、ストロベリーと味の話をすれば、徐々に輝き始める幸村さんの目。本当にこの人甘いものが好きなんだなぁ。
「かき氷でも、ブルーハワイっていう青い色したやつとかあって……」
「青い食べ物でござるか!?」
「うん、意外とハマルんだよね」
「某……青いものは……どうにも」
「幸村さんが食わず嫌いなんて珍しい!」
「殿は某をどのような目で……」
「こんな目ですけど?」
わざと顔を近づければ真っ赤になる幸村さん。
飽きないなぁこの人。
「ち、近いでござるよ」
「そうそう、ダンナを虐めるのはそれくらいにしといてちょーだいな。チャン」
「佐助!」
側の木から逆さまにぶら下がっている武田の忍び。おそらく、私達が城を出た時からずっとついて来ていたのだろう。ま、こんなご時世ですしね。
「佐助さんも人が悪いなぁ」
「そう? 俺様嫌われちゃった?」
「いいえ?」
「チャンに嫌われたらどうしようかと思っちゃったよ」
「殿!」
佐助さんと話していれば、隣から腕を引かれ軽く体勢を崩してしまう。普段らしからぬ彼の行動に、驚きつつも当人に視線を合わせれば、耳まで赤くした幸村さんの姿。
「あらあら」
「早く、買って、帰らねば!」
「……そうですね」
よっぽど恥ずかしいのか、こちらを見ようともしないで歩き出すから、自然と引っ張られる形になってしまう。これはこれで、嫌じゃないけど。
繋がって手から伝わる温度は、思っていた以上に暖かいし、なによりヤキモチを焼く珍しい幸村さんも見れてしまったわけだし。
「お腹いっぱい、かも」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、なにも。売り切れちゃったら困るし、早くいきましょ」
「そうでござるな!」
いつの間にかいなくなっていた佐助さんは、単にひやかしに来たんだろうか。
ま、どちらにせよ。
これだけ甘い思いをさせてもらったんだから、もうアイスはいらないかな。
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