不思議な……不思議な、夢を見た。
穏やかに時を刻む日常は私の良く知るソレで、今身を置く戦国時代には似つかわしくないもの。視線の先では武田の人や政宗さん達は勿論、見覚えの無い人達が一所に集まって何か話し合いをしているようだ。内容は聞き取れないけれど話している人達の顔を見れば、負の話題でない事くらい容易に推測出来る。
すでに名物となった突発的な幸村さんとお館様の殴り合いに、気を留める人がいない事から集っている人々の仲の深さが窺えた。
今見えている光景は夢だと分かっているのに、この光景が本物であればいいと願ってしまうのは、私が甘ちゃんだからだろうか? 目が醒めて、今見ている夢を誰かに話したら一笑されるだろうけど、平和であるならばそれが一番良いとつい願ってしまう。
「こっち来いよ」
「あ、うん」
夢の中で私が存在しているとは思ってなかったので、多少の驚きを覚えつつ差し出された手をとった。
「いつまで経ってもは慣れないのな」
「そんな事ないよ」
「君、早く彼女の手を離しなよ」
「煩ぇ。指図すんな」
勝手に紡がれる会話に、受け答えしている私は、私、ではないのだと悟った。
親しげに交わされる会話。
穏やかな雰囲気。
ああ……そうか。戦は、終わったのだ。
ほっとしたら思わず涙が零れた。
「!? どうした! どこか痛いのか!?」
「貴様がの手を離さないのが悪い」
「なっ!! テメェ……良い度胸だ! 今日という今日こそは決着付けてやる!」
「違うよ。目にゴミが入っただけだってば」
自分でもベタだな、と突っ込みたくなるような切り返しをして、零れた涙を袖で拭う。クリアになった視界に映る心配そうな表情を湛える彼等に、似合わない。と笑いながら涙を零す。
「ひっで……それが心配したヤツに対する態度かよ」
「あはは、だって似合わないんだもん!」
「全く……君って人は」
「可笑しいものは可笑しいんだから、しょうがないでしょ?」
絶えることのない笑顔と、会話。
私の願望が現実になっているこれは、やはり夢だと思う。
起きなくては。今見ている景色を現実にする為に。
自分自身を叱咤して、ゆっくりと瞼を上げれば見慣れた天井と冷たい空気が肺を満たす。
「全く……も…………。……??」
紡ごうとした言葉の先が見つからない。
夢の中では何度も言っていた単語は、霞の向こうに置き去りにされ思い出す事すら叶わない。
「あれ……? 何の夢見てたんだっけ……」
確かとても良い夢だったような気がするんだけど。
直前まで見ていたはずなのに、何故こうも綺麗さっぱり忘れているのだろう。夢の内容を思い出そうとすればするほど、深みにはまっていく。
「うーん……人が沢山出てきてたような気がするんだけどなぁ……」
輪郭の片鱗を掴もうと足掻けば足掻く程内容は薄れていき、見ていた雰囲気すら忘れてしまった。
「ま、どうせ夢だしね」
予知夢だったら面白かったのに。と内心で笑いながら障子を開ければ、数日振りの青空が広がっていた。
「、Get up! ……っと起きてたか。これから会議だdo it quickly」
「すぐ着替えて向かいますんで、部屋から出てって下さい!」
「Ohこりゃ失礼」
言葉と表情が噛み合ってませんよ……政宗さん。
口角を上げたままの政宗さんを追い出して、手早く身支度を整える。
「お待たせしました」
「、今日もcuteだな」
「お世辞言っても何も出ませんよー」
「人の好意は素直に受け取るモンだぜ? lady?」
「はいはい」
一蹴されてつまらなそうな政宗さんを後ろ目に、広間へと足を進める。
廊下から見えた、中庭に降り注ぐ太陽に思わず口元が綻んだ。緩んだ顔を政宗さんに見られたらからかわれそうだから、表面は素面を装って内心で語りかけることにする。
いつか出会う、この世界に生きる人達に。
本日は晴天也。
こんな天気の良い日は、一緒にお茶でもどうですか?
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