今私達はアキュリュースの傭兵として戦争に参加している。
 本当はこんな事面倒臭くて嫌だったんだけど、この戦争には「奴」が居る。
 そう、兄さまの破滅に繋がる第2の人間。「ツェラシェル」あの神官崩れの詐欺師…。
 あいつの云いにくい名前を思い出す度に腸が煮えくり返るような思いを味わってきたけど、それも今日で終わり。

 「戦争」という名の「殺人」

 ミズチの攻撃を逃れた残党兵を片付けながら私は奴を探した。あの白い服なら結構目立つはずだ。
 それらしき後ろ姿を見つけてはさり気なく確認する。
 前方の視界に白い服。確認の為に近付く…………ビンゴ!
 まっ先に探したのはいつも奴の側に控えている2人の妹。どうやら今は居ないらしい。
 他の仕事でも入っているのだろうか?何にせよ天は私に味方したのだ。
 私だって犠牲は少ない方が良いと思っている。最小限の犠牲で最大の効果を。
 そっと、私は奴に近付いた。気配を消すと逆に怪しまれるかもしれないのでそれこそ「ただ一緒に 戦っている傭兵」の雰囲気を演じる。

「こちらは大体片付きましたけれど…大丈夫ですか?」
 奴の体に微かな怪我を見つけ心配そうに訪ねる。
「はは、これくらいなんともないですよ」
 よくもぬけぬけと…。
「そうですか、あともう少しですね。お互い頑張りましょう」
 そう笑顔で云うと奴も微笑む。
 私達が油断しているとでも思ったのか死角の位置からディンガル兵が突進してきた。
「きゃあ!」
 咄嗟に私は「気づけなかった」演技をする。奴が女に弱いのは確認済みだ。
 案の定奴は私を庇い、私をディンガル兵の間に割り込む。

 好機。
 私は躊躇いもせず、「奴」とディンガル兵を持っていた剣で串刺しにした。
「な………!」
 口から血を溢れさせて奴が私を見つめる。
「貴方が生きてると私は幸せになれないの」
 だから、死んで。
 目の前で崩れ落ちる体。最後の最後まで私の事を見つめているその瞳。
 …吐き気が、する。
 止めを刺した剣はもう使いたくなかった。
 錬剛石で最高まで鍛えた剣だが今はただの鈍い光りを放つ殺人道具としか見れなかった。
  顔に付いた返り血を手の甲で拭い、口に運ぶ。
「う…っ…」
 感じた事のないような嘔吐感に襲われる。
 呼吸が苦しくて脳が、ぐらぐらする…。我慢しきれずに私はその場に嘔吐した。
 丁度その時他の場所で戦っていた仲間が帰ってきた。
 タイミング、悪すぎ。
「大丈夫!?」
「初めての経験じゃし、刺激が強すぎたか」
「ちょっと、アンタ何やってるのよ!しっかりなさい!」
 目の前が真っ赤に染まる。立っていられなくなって片膝をつく。
 皆、何を勘違いしているの…?
 私は、死体を見て吐いた訳じゃないの。私は……。

 最低……。
 自分の都合だけで躊躇いもせずに人を、殺す。
 こんな私が無限のソウルの持ち主…?お笑いね。
 ああ…もう何も考えたくない。
 いっその事…

 私が、死んでしまえば良いのに。

 不意に目を開けるとイークレムンが心配そうな顔で覗き込んでいた。
 どうやら私は倒れたらしい。
「大丈夫ですか?」
 額に乗せられるひやりとした感触の手。レムオン兄さまと同じ温度。
「リディア…様…?」
 涙が、出た。止めどなく溢れ出るそれを、止める術を私は知らない。

 きっとあの双児は兄の死を心から哀しむだろう。
 フリントに育てられたルルアンタも心を痛めただろう。
 私は、自分と同じ気持ちを彼女らに与えたのだ。
 自分が味わいたくないから、他人に押し付けた。
 あんな辛い思いはニ度としたくないと思ったのに……。
 大切な人を失った気持ちは痛い程解るのに……。
 きっとこの事を話したらレムオンは私を切り捨てるでしょう。軽蔑するにも値しない、最低な女。
 どうすれば良かったの…?
 もう一度あの人を手放せば良かったの…?
 それでも、私は……。

 問いに答える者はいない。

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