ある日突然妹が何やら大きな袋を抱えて戻って来た。
「レムオン兄さま、ただいま帰りました!」
「ああ、お帰り」
帰って来るといつものように満面の笑みで帰宅の挨拶をする。
不思議なものだ、この妹がいると自然と屋敷の中が明るくなる。誰にでも好かれる妹。
分け隔たりなく接する姿に好感を持つ者が多いのか。それとも…
どん!という地響きにも似たそれでレムオンの思考は中断された。
どうやら今の地響きの原因はリディアが持って帰ってきた袋を床に下ろした振動らしい。何だ、あの袋は…
中にモンスターでも入っているのではないか、という不安がよぎる。
リディアは何かにつけてレムオンのダブルブレードを見たがる。彼女曰く、構えてる姿がなんともいえないらしいのだが、当人にとったら迷惑意外のなんでもない。
それでもついリディアの望みを叶えてしまうのは一種の兄バカ、というものだろう。
もちろんレムオンが『兄馬鹿』という単語を知る訳もないが。
「レムオン兄さま、いつかの500ギア返しにきました!」
えへへ、とはにかむその顔に思わず表情が緩む。
だがリディアと目があった瞬間いつもの無表情に戻るあたりがプライドの高さなのか。
「その袋は何だ」
「だから、お兄さまに借りた500ギアですってば!」
500ギア。それは量にして片手で持ててしまう位ではなかったか…?
意味を掴みかねているレムオンにリディアはわざとらしく大袈裟なそぶりで云う。
「借りたお金には利子を付けて返すのが当然ですよー」
おもむろにリディアが袋の口を開ける。
……どう軽く見積もっても10万はくだらない。この妹は何を考えているのだ…
理解不能。脳がその単語を弾き出す。
「エンシャントのギルドにある魔法の宝箱って知ってます?」
「いや」
「入れたお金が宝箱を開けるのに成功すると倍に増えるんですよ。それで私兄さまから頂いた500ギアを試しにいれてやってみたんですね。そしたら…こんなになっちゃって。宝箱の中身がこれ以上増えない、って云われたんでやめて戻ってきたんですよー金額的には512000あります」
512000という数字よりも賭け事に金を使ったという事実がレムオンの怒りの琴線に触れた。
「貴様という奴は一体何を考えているんだ!そんな事に金を使って!何処ぞやのドラ息子ではあるまいし!!」
リディアは俯き顔をあげようとしない。
多少は冷静さを取り戻しふと、リディアの方を見ると握った手がこれ以上はないという程白くなっているのに気付いた。
「……」
リディアに近付き、手を上げる。瞬間彼女の体が強張った。
ぽん、と軽く頭に手を置く。弾かれたように見上げるその瞳には光るものが溜っていた。
「俺も少し言い過ぎた。お前がお前なりに考えた結果なのだろう。で、どうするつもりなのだ」
これを…と続け袋から今にも溢れてきそうな硬貨を見る。
「え…?」
取り合えず利子を付けて返す事だけを考えていたリディアはその先の事まで考えていなかった。
リューガ家の家計の足しに…なんて云おうものならレムオンの鉄拳が飛んでくるであろう事が予想出来てしまう。服の下は冷や汗だらだら。
「あの…兄さまにお任せします!」
そう云って、逃げた。
ダッシュで走り去る妹を見やってレムオンは人知れず溜め息をつく。相変わらず考えの浅い奴め…。
再度袋の中を見やっても出てくるのは溜め息だけ。
「どうしたものか…」
リューガ家としての資産にするわけもなし…ならば何に使えというのか。
あの金はリディアにあげた金なのだ。すなわち、ここに置き去りにされているこの金紛れもないリディアのもの。それなのに返す、と置いていった彼女。
「…馬鹿が」その後リディアが帰ってくる度に彼女の部屋の内装が豪華になっていたり、ドレスが増えていたりするのはレムオンが何時間も考えた末の結果である。