私がその報を受けたのは少し日が経ってからの事だった。
「白虎将軍ジラークが失踪?」
「うん、どうも2.3日前に聖光石の鉱山で行方不明になったみたい。捜索隊とかが組まれて大規模に捜索が行われたんだけど結局見つからなかったんだって」
適当に相づちを打ちながら内心私は舌打ちしていた。
予定よりも、早い。
レムオンの事だってまだ不安は残るのに……立ち止まり、考える時間はすでにない。己が、己の最良と思うべき事を為し遂げるだけ。
私は急いで聖光石の鉱山へ向かう為準備に取りかかった。
何故か、早急に手を打たねば、と脳が警告を鳴らす。
この不安は一体何処から沸いてくるのだろう。未だ牢に囚われたままのレムオンのせい?それとも先を視る事の出来なくなった未来のせい?聖光石の鉱山にて邪竜イシュバアルを退治、その後邪竜の断層にて最後の竜、アズラゴーザを退治。これで、私の準備は最終段階を迎えた。
「なんか緊張する……」
猫屋敷に向かう足取りが非常に重い。
きっとあの人は何もかも知っているはずだから。
初めて会った時も冷や汗ものだったが、あの時は見逃してくれた。だが、今度は…そう上手くはいかないだろう。腹を括っておかなければ。
「そろそろ来る頃だろうと思っていました、リディア」
「お久しぶりです、オルファウス様」
「中に入ってお茶でも……と言いたい所ですが」
ああ、ネメアが次元の狭間に落ちた事も伝えないと……。
思って、口を開こうとした瞬間
あの子の事なら大丈夫ですよ
とやんわりとした声で遮られた。未だ伝えてないのになんでオルファウス様には判ったのだろうか?あの人は千里眼でも持っているのだろうか。
ついつい馬鹿な事ばかり考えていたら、予想を超える爆弾を投下された。
「貴女が、背負ってますからね」
この言葉の、意味するところは…………やはり……。
「いつから、気付いて、らっしゃったんですか?」
きっと今の私は過去どんな時よりもこわばった表情をしている事だろう。
隠し事は出来ないと思ってはいたけれど、これは少しばかり予想外だ。気付いていない訳はないと思いつつも、何処かで隠しておける自信は持っていたと思う。
「貴女が初めてここに来た時から」
あえては、言いませんでしたけれどね。
苦笑で返すしかないだろう。残念ながらギャグや別の話題にすり替える程のボキャブラリーを私は持ち合わせていない。
初めから気が付いていながら、放置していたというのか。この人は。闇に落ちる可能性だってあるはずなのに。いや、違う。放置していたのではない…見守ってくれていたのだ。きっと、今日この日まで。
私の選んだ道は間違っていなかった、と…そう、思っていいですか?
「それで、貴女はどうしたいのです?」
私は……
私が、するべき事は……
「竜王の島に、飛ばしてください」
火が燻る匂いが鼻につく。
ごつごつとした岩場を抜け、静謐な空気が漂う洞窟の奥底に、奴は、いた。
この世界を管理するもの、世界の秩序を守る、神の代行者……。
「……リディア。……無限のソウルを持つ者」
圧倒的な力が押し寄せてくる。以前最終決戦で戦った時よりも数段強そうに感じるのは私の心に迷いがあるせいか。この期に及んで迷う事が出来るなんて、まだまだ余裕があるという事なのかしらね、と他人事に考えて思わず笑みがこぼれそうになった。
「そしてその力ゆえに世界を混沌に導く者よ……汝の存在はあまりにも危険だ……。均衡と秩序ため、神の代理たる竜王の名において、我は汝を滅ぼせん……」
「私だってそう簡単にやられる訳にはいかないの。秩序と均衡?その定義は誰が決めたの?正義とか、悪とか。誰にも決められない。自分の正義は、自分で貫くのみ!」
愛用の剣を鞘から抜き、眼前に構える。冷たく光る刃、持ち慣れた柄の感触が私を戦闘へと誘う。例え神の代理だろうが、道ばたに群がっているモンスターだろうが、敵は、敵。それ以外の何物でもない。
己に抱えた闇の力を最大限に発揮して挑んだ戦闘は、自分でも驚くほどあっさりとカタがついた。無論仲間のサポートも大きい所ではあるが、ウルグの力があれ程強大だとは…。
「……なぜだ?……運命の女神よなぜ、……我を滅ぼし世界を混沌の闇に包まんとする……?」
竜王の最期の言葉、この台詞を聞くのは初めてだ。
「余はうつつの身の最期の神であった……。人の子よ」
崩れゆく竜王と視線が絡む。
「すべての神を殺し、人は自分の足で歩めると言えるのか?」
言葉が、言霊となって心に響く。「神去った世に、汝は、何を試そうというのだ。光と闇の均衡が崩れぬこと、もはや、かなうまい……」
塵と共に消えゆく竜王の言葉が刺の様に突き刺さる。
後悔はしない。
これは私が望んだ事だから。
例え、待っているものが望んだ結果ではなくても、今まで歩いて来た道を悔やみはしない。全て上手く言った、とは言えないけれど。犠牲無く済ませた、とは言えないけれど。
自分の考えで進んで来たこの道を戻りたいとは思わない。だから、言う。
今は何も無き虚空に向かって
「試す事など、何もない。私は……私の望むべき、ただ、一つの未来を掴み取る」