貴方を救いたくて
 貴方ともっと話がしたくて
 貴方に生きてもらいたくて

 自由になってほしくて
 色んなものを見てほしくて
 気付いてほしくて

 言いたい、言葉があった。

 運命は変えられないと言った。だから変えてみせると心に決めた。
 どうしても生きていてほしかった。

 思い込まないで
 どうか信じて
 閉ざした目を開けて

 その目に映るのは闇じゃない
 貴方の周りは光で溢れている

 気付いて

 ほら、世界はこんなにも私達に優しい

「レムオン兄さま……」
 呼び掛けると微かにまつげが揺れた。
 うっすらと開かれる瞼の下にはいつもと変わらぬ瞳の色。
「兄さま…」
 名前を呼ぶと涙が溢れてくる。
 悔しい。レムオンの脆い精神が殺してしまいたい程憎い。
 もし彼がカフィンのような前向きの性格だったら、こんなに苦労する事はない。
 ロストールを出て、旅をする事だって出来るのに…
 その全ての可能性をあの脆い精神がことごとく打ち砕いてゆく。
 憎い、悔しい…悲しい。
「…みたのか」
 視線が合うとレムオンはすぐに視線をそらしてしまう。
 脆い、脆すぎる精神。何故この人はこんなにもコンプレックスの固まりなんだろう。
 いっそ全てを捨ててくれれば…

「出ていけ」
 よろめきながら立ち上がり運命の分かれ道とも言えそうな台詞を吐く。
 私がこのまま出ていかないとすぐに怒るのよね。
 思い出したら心の底から腹が立ってきた。
 私が今までどんな思いでいたかも知らないで
 どんな気持ちで貴方に再会したかも知らないで
 どんな気持ちで今日まで生きてきたかも知らないくせに!

「出ていけといってい……」
「こンの臆病者!!」

 …とうとう私はキレた。

「一体私が今までどれだけ苦労したと思ってるのよ!何も知らないくせに!私の気持ち、気付いてるの!?知らないでしょう?判らないでしょ!?どんな思いで私が生きてきたかなんて何も知らないくせに!!」
 私はそこまで言ってレムオンが出られないように部屋の扉の前を陣取る。
「そのくせに『出ていけ』ですって?良くそんな言葉が吐けたわね!貴方のその『思い込み』のせいでどれだけ私が心疲労してると思ってるのよ!ティアナ様が好き?だったら政権なんかお構い無しに自分の思いを言葉に現せば良いでしょ?!それをしないのは貴方が逃げてるだけだからよ!」
 レムオンが私の気迫に押されて後退する。
 …逃がすもんですか。
 こうなったら今まで溜め込んできた事を全部ぶちまけてやるわ。

「ダルケニス?だから何?貴方が人間とダルケニスのハーフなら、私は破壊神ウルグ憑きよ!貴方なんかよりずっと濃い闇を背負ってるの!いつ精神を乗っ取られるとも限らないわ。この不安感、貴方とは桁違いなのよ!しかも円卓騎士だかなんだかが奴の復活を目論んでるせいで私の中のウルグが活性化して大変なのよ!!だから…」

 そう、だから私は…
「自分の平穏は自分でもぎ取る事にしたの。人に与えられた平和なんていらない。そんなものは所詮まやかしにすぎないもの。自分で手に入れたモノだけが初めて自分のモノになる。貴方は…
レムオン兄さまは……」

 今までどれだけ自分の力で勝ち取ってきたの?

 地位も名誉も産まれた時からあった。抱え込んだのはいつ正体がバレルかという不安感。
 ただ、それだけ。コンプレックスと引き換えに貴方は多くのものを手に入れていた。
 それって安いものじゃない?
 力だってある。例え正体がばれてロストールに居られなくなったとしても失うのは『地位』と『名誉』だけ。
 身の回りの人たちが皆居なくなるとでも思ったの?
 そんなに貴方は愛されて無かった?

「傲慢、愚か、馬鹿。なんでもかんでも自分のベクトルで測ろうとしないでよね。貴方が信じなくても貴方を信じてる人は大勢いるのよ。信じられない?エスト兄さまやセバスチャンや、皆が。貴方が人間じゃないって知ったら離れていくと思った?」
「……他人だ」
「そうよ、皆他人よ。血が繋がってなければ信じられない?例え血が繋がっていても同族殺しをする人たちは沢山いるわ。…違うでしょ。大事なのは自分がどれだけその人の事を信じられるか。
自分が疑っていたら相手から信じてなんてもらえないわよ」
「しかし俺はダルケニスだ…。人の生き血を欲しがる魔物だ!」
「それなら私は世界を破滅においやる破壊神よ?他には?」
「いつか…俺を信じてくれている者を殺してしまうかもしれない」
「私は、自分の為だけに2人の人を殺したわ。…知っているでしょ?エリスの密偵よ」
「な!?貴様は何てことを!真実がばれたらただではすまんぞ!?」
 レムオンが私の肩を強く掴む。
 ああ、ようやく、自分から前に進みでてくれたね。
「覚悟の上よ」
「口では簡単に言うが、それで済むと思っているのか?!」
「貴方が考えているような安っぽい覚悟じゃないわ。ファーロス、強いてはロストール全てを敵に回してでも、私は幸せになりたかった。例え討伐の前線にゼネテスが居たとしても私は迷わず剣を振るうわ。私の、自分の幸せをつかみ取る為に」
 レムオンが判らない、っといった風に頭を振る。
 理解出来ない?そうでしょうね。今まで保身第一で前に出る事を知らなかった人に理解出来る訳がない。
「何故、お前はそこまでする」
 ようやく、正気を宿した瞳の色。
 今なら言える。

「貴方に、生きていて欲しいから」

 全ての思いを込めてその言葉を紡いだ。

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