何処までも続く赤い大地を駆け抜けるその姿はまるで一陣の風のよう。
 戦う姿は舞踏の様に華麗で美麗。
 無駄の無い動きが屍の山を築いていく。
 戦場にその姿を確認した者は誰もが云う。
 戦神ソラリスの再来。
 ロストールの戦女神。
 そして…

 シロイ、トリ

「まさかリディアがこんなに踊れるとは思ってなかったよ」
「ふふ、有難う、エスト兄さま」
 突如王宮で開催される晩餐会に招待された。
 晩餐会、と云ってもそのほとんどがティアナの独断のようなもので、話の弾みでこういう状態になってしまったにすぎない。
「リディア様のドレス姿が見てみたいのですわ」
 王女様らしい、と云えばらしい発想なのだがリディアにしてみれば自分のドレス姿なんぞを見て何が楽しいのだろう?といった感じである。
 第一似合わないに決まっている。
 貴族のお嬢様のように髪も長くないし、何より動きやすい服、がモットーなリディアはドレスと云うものに偏見さえ持っていた。
 あんな服を着ていて敵に襲われた日にはどうすれば良いんだ?
 実際はそんな事あるはずも無いと頭では解っていながらも心はついてこない。
 でも、ティアナが喜ぶ姿が見れるのなら良いとするか。
 ティアナが喜ぶと自分の最愛の兄であるレムオンも喜ぶ。
 兄が喜ぶ姿を見られるのなら似合わない格好も我慢出来ると云うものだ。

 その旨をたまたま帰っていたエストに話した所、もしかしたら舞踏会も開催されるかもしれない、と云うので一応踊りの練習もしておいた方が良い。という結論に達していた訳だが。
「本当に、一体何処で習ったんだい?」
「え…?ええ、昔ほんのちょっと……」
 口が裂けても前世?にレムオン兄さまに習いました。なんて言えない。
 自分の置かれている状態がいかに歪んだものかと云うのを実感する。
「それにそのステップ兄さんのに似てるんだよね」
「き、気のせいですよ、エスト兄さま」
 感の良すぎるこの兄に隠し事をするのはかなり危険だ。
 背中に冷たい汗が伝うのが分る。
「だよね、そんな事ある訳ないもんね」
 にっこり笑うその笑顔が怖い。
「そうですよ」
 顔が引きつらないように気を付けながら慎重に言葉を紡ぐ。
「それじゃ今度はドレスに着替えないとねレムオン兄さんの仕度はもう終わってるみたいだし」
 ドレス…単語を聞くだけで気がめいる。
「参りましょうか、リディア様」
 いつから控えていたのかセバスチャンが声をかける。
「…分りました…」

 髪の色に合わせた薄い碧銀のシンプルなデザインのドレス。
 思っていたよりも動きやすい。
 髪が短いので結い上げる事は出来ないが、装飾を施した髪止めが彩り美しく髪を飾っていく。
「リディア様はお色が白いからどんな色もお似合いになりますわ」
「髪の色もお白いから装飾がとっても引き立ちますわね」
 着付けをしてくれている侍女達が楽しそうに微笑む。
「でもドレスなんて似合わないよ」
「そんな事ありませんわ、リディア様。さあ、終わりました。鏡で御自分のお姿を御覧になってみて下さい」
 促されるまま鏡の前に立つ。
 驚いた。
 これは別人ではないか。
 呆然としているリディアを見て侍女達は口々に云う。
「だから云いましたでしょ?」
「似合わないだなんて、リディア様御自分をもっと高く評価して下さいませ」
「レムオン様もきっと驚かれますわ」
 …でもやっぱり恥ずかしい……

「ほう、見れる姿だな」
 顔に血液が上るのを感じる。
「兄さんったら、言葉が足りないよ。こういう時は綺麗だ、って云うんだよ。全く」
 口では誰もエストにかなわない。
「さ、ちゃんと僕達の可愛い妹をエスコートしてきてよ」
 悪い虫がつかない様にね。
 レムオンにしか聞こえない声でそう念を押すあたりが抜かり無い。
「無論だ。行くぞ」
 踵を翻し足早に歩く兄の後を慌てて追う。
「ではエスト兄さま、行ってきます!」
「ああ、楽しんでおいで」
 振り向きざまに云う妹に微笑みながらエストは思う。
 あの姿を見て堅物な長兄の心が少しでも揺らぐと良いんだけど。
 本人が聞いたら激怒しそうな事を当たり前の様に考えているのはこの館の者全てである。
 知らないのは当事者の二人だけと云うのもかなりのお笑い話だ。
 今回の事も実はエストがこっそりティアナと打ち合わせしていた事だとしたら…?
「後は結果待ちだね」
 心底楽しそうに呟く。やはりエストにかなう者は居ないのかもしれない。

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