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別に「それ」の確率自体は低いものじゃない。
0で無い限り「あり得ない」なんて戯れ言を口にしないで欲しいと思う。
ただ…それが自分の知っている人か知らない人かの違いがあるだけ。
友達だとか、知り合いだとか、肉親だとか。
誰だって一度は持つ感情だ。
その感情だっていつまでも持ち続けている訳じゃない。人は案外非情な生き物で、時間さえあれば忘れる事が出来る。
時折忘れた頃にふと、思い出して感傷に浸るだけだ。
もしくは全ての感情を捨て去って「何も無かった」事にする人のどちらかだ。
だが後者の場合は自分の人生を投げ出す事になる。何故そんな愚かな事をするのか?
他人の為に自分を捨てる、なんてどっかの聖職者みたいな事を実行に移す人は果たして何人いるのだろう。
本当、人間は興味深い。
何故こんな否定的な事ばかり口にしてしまうのか自分でも分からない。
もしかすると僕の頭はすでに壊れて脳が溶け出しているのかもしれない。
他人の分析ばかりしているせいで思考が歪んでいるのかもしれない。
今僕が考えている事は、本当に僕自身の考えなのか?
今まで僕が分析してきたのは他人の事なのか?それとも僕自身の事なのか?
否。そのどれでもなく、その全てである。
----キャップが、死んだ。
現場検証の時に錯乱していた犯人グループの一人が銃を乱射。
すぐに取り押さえられたもののその弾の一つがキャップの体に埋まった。
警察病院に運ばれた時にはすでに意識はなく、そのまま戻る事は無かった。
まるで眠っているかのような顔。その冷たい肌にそっと、触れる。
氷水に手を浸したような気がした。綺麗な、顔。
キャップ、顔色が、悪いよ。
小さな声でそっと呟いた。扉付近にいた結城翠が困った様な微妙な表情を作る。
彼女は人一倍聴覚が優れている為聞こえてしまったのだろう。
いつもと変わらない青山の声が。
外からは走っているのか、と錯覚する位急がしそうな足音が絶えまなく聞こえてくる。
百合根は警部だ。通夜にしろなんにしろする事が多くて大変なのだろう。
かく云うSTのメンバーも先程から忙しそうに動いている。いつもは頼まれても動かないのにね。
「青山君…」
翠さんが話し掛けてくる。
「何?もう、時間?」
僕は腕時計を見ながら答えた。彼女は僕の後ろにいるから表情は判らないけど雰囲気で困っているのだ、と思った。
何故困る必要があるんだ?僕がキャップの死体の側にいるから?
「ねぇ…」
困った様な翠さんの声。何が云いたいの?僕に何かして欲しい事でもある訳?
さっき、僕に「何もしなくて良いから」と云ったのはアナタタチじゃないか。
「……青山君、貴方なんでそんなに冷静なの?」
「なんで、ってなんでさ」
僕の問いに翠さんは黙ってしまった。僕にどんな答えを求めてたの?
「僕が泣くとでも思ってた?こんな良い歳して、さ。涙流しながらキャップの遺体にしがみつきでもすれば本望?」
「青山君!」
「………ごめん、キャップに失礼だね」
また、沈黙。さっきから翠さんは口を開こうとしては閉じて、を繰り返している。
何をそんなにためらってるのさ?云いたい事があればはっきり云えば良いのに。変な翠さん。
「貴方…何も、思わないの?」
僕はゆっくりと翠さんの方を振り向く。瞬間、翠さんは何故か大きく目を見開いた。
「…哀しいとか思わない訳?だって…貴方とキャップは……」
ああ、そういう事。僕は翠さんの云いたい事を理解した。
そして、云う。
「仕方ないじゃない」
死んでしまったんだから。
翠さんはそれ以上は云わずに部屋を出ていった。何故か扉の閉まる音だけがやけに大きく聞こえる。
皆なりに僕の事を心配してくれた、って訳か。
百合根の方に向き直り、そっと口付けを落とした。やはり、冷たい。
いつもは暖かいのに変な感じだね、キャップ。
不意に翠さんに云われた言葉を思いだす。「哀しくないの?」
哀しいと感じるのは胸が張り裂けるような思いがするからだ。苦しくて苦しくてたまらない。
だけど今の僕はそんな心情じゃ無い。
いつもと同じ。現場に行って犯人の心理状態を考察して、捜査会議で意見を述べて。
ただ…違う所と云えば…。
今は、なんだか頭がぼぅっとしてて何もしたくない気分。
何も考えたくないし、話したくもない。誰とも会いたくない。
キャップの顔を見ていたいだけ。このまま、後少し、キャップの事を見ていたい…。
その、感情の名前を
僕は知らない。
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