夢を見た
暗闇に僕は独り立っている。
何も見えないし、何も聞こえない。
「誰かいないの…?」
問いかけてみても帰ってくるのは己の声だけ。こだましていた声が聞こえなくなると、後に残るのは恐ろしい程の静寂。
いつから僕はここにいるんだろう?ずっと前からのような気がするし、つい最近のような気もする。後どれくらいここにいれば良いんだろう。この闇から抜け出したい…抜け出してはいけない。何故?
僕はここに入れられた?
誰に?
他人に?
僕自身に?本当に僕はここに「入っている」の?
答えてくれる人は誰もいない。当たり前だここには僕しかいないのだから。
大きく息を吐き出して地面に座り込む。改めて辺を見回してみるが、やはり何も見えない。目の前に己の手を突き出して空を切ってみても風を感じない。今僕が振ったのは本当に己の腕なのだろうか?僕自身もこの延々と続く闇の一部なのではないか?せめて、僕を、僕だと確認出来るだけの光が欲しい。
血を吐くような思いで念じる。すると前方に黄色い、蝋燭のような光がともった。僕はその光を逃さないように慌てて駆け寄り、そっと光に手を伸ばす。
「これが、欲しいのかい?」
良く見れば光は僕以外の人の両手に納まっていた。僕は久しぶりに見たその色をじっと見つめながら問いかけられた言葉に頷く。
光があれば僕は僕自身を認識出来る。
「この光は、僕の命」
光が命?変な事を言う人だ。
「それでも欲しい?」
彼の言う事に、また頷いた。
「なら君が僕の名を言えたらこれをあげよう」
名前?名前なんて分る訳ないじゃないか。初めてあった『人』なんだから。それよりも、一刻も早くあの光が欲しい。あれがないと僕は僕でなくなってしまう。
「名前なんて知らない」
素直に答えると彼は困ったような、それでいて哀しそうな笑顔を作った。
「知っているはずだよ。君と僕はとても遠くて近い場所にいるのだから」
遠くて近い?さっぱり分らない。彼は僕を虐めたいのだろうか?欲しい光を与えずに僕を焦らして遊びたいのだろうか?
「なら、君が想う僕の名前を言ってごらん」
「………………リドル」
僕が一つの名前を呟くと彼は華のように微笑んだ。ああ、この人凄く綺麗な人なんだ。
「僕の名を言えた君に、この光をあげよう。でも、もう一度だけ言うよ。これは僕の命の灯火。それでも君は欲しいんだね…?」
何度も同じ事を聞くリドルに僕はだんだん腹が立ってきた。やはりリドルはあの光をくれる気がないのではないか?
「僕はその光が欲しい」
少し苛立った声で告げると、リドルは彼の名を告げた時以上の笑みで微笑む。
「そう、それでいい、ハリー・ポッター。君はこの光を手に入れ、望みを成就させる。そして…」僕を、殺すんだ。
リドルを殺す?何故?僕が光を手に入れるから?
分らない、といったように首を傾げるとリドルが近付いてきた。
僕の片手をとり上に向けさせ、彼の持っていた光を僕の手の平にそっと移す。
「君は、君の望むまま強欲に、美しく生きればいい。それが僕の望む未来に繋がるのだから」闇に生きるモノの基本概念。
………ホシイモノハ、ウバッテデモ………光が僕の両手に納まると共に、リドルの姿は暗闇に溶け、消えた。
僕はただ、光が欲しかった。自分を認識する為の僅かな光が。光に照らされる己の手、腕。順に光を動かし自分を確認する。
そうだ、僕は『ハリー・ポッター』だ。ようやく確認出来た。僕はハリーだ。誰かに聞いて欲しくて僕は走った。何処までも何処までも走って走り疲れて、きれた息を整える為に座り込む。
どうして誰もいないの?僕がリドルを殺してしまったから誰もいなくなってしまったの?手に入れた光で辺を照らしてみるが、あるのは音さえも飲み込む深い闇。
これでは、何も変わらない。暗闇に同化していた時の自分とまるで同じではないか。結局自分は何がしたかったのだろう?
ずっと光を求めていた先程までの自分が酷く滑稽に思えて僕は大声で笑った。
いつまでもいつまでも、声が涸れても笑い続ける。
そんな夢を見た