夢を見た

 螺旋階段を必死に走っていた。
 早く、早く、もっと早く走らなければ。
 つかまったら殺されてしまう。
 僕は死にたくない。だから走る。どこまで続くか分らない螺旋階段をひたすら上に向かって。
複数の足音が後方から聞こえてくる。まずい、もっともっともっと……。
 息が苦しい、肺が酸素を求めてぜいぜいという呼吸音が聞こえる。

 逃げなくては

 早く、屋上へ

 そして……

 どれくらい走ったのだろう、ようやく階段の終焉が見えた。
 錆び付いた扉に勢い良く体当たりをくらわすと、軋んだ音を立てて扉は開いた。
「待っていたよ、ハリー」
「リドル!」
 屋上に佇んでいたリドルに飛びつくと、彼は何歩か後退した後抱き締めてくれた。
 早く逃げないと、あいつらが来てしまう。
 彼に伝えなければ、と思うのだが酸素が足りず言葉を紡ぐ事が出来ない。
「リ、ドル……」
 縋るように紅い瞳を覗き込めば、分ってる、と微笑む。
 彼の微笑みに僕は安心してもう一度強く抱き着いた。
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ、ハリー」
 リドルは幼子をあやすように背中を叩いてくれる。彼の体温を感じているとああ、大丈夫なのだと酷く安心する。

「そこまでだ、ハリー・ポッター」
 掛けられた声に振り向けば、今迄僕を追ってきた奴等がいた。
「何で、僕を追うの!?」
 僕は何もしていない。なのに何故追われなければいけない?
「お前は第二の闇になる」
 闇…?闇ってなに?どういう事?その訳の分らないものに僕がなるから僕は殺されるの?冗談、
全く持って理解不能だ。
「現に貴様の傍らには『ヤミ』がいるではないか」
 傍ら…?僕はしがみついているリドルを見上げた。
 彼はいつも通り薄い笑みを浮かべているだけ。
 リドルが闇なの?だから僕も闇になるの?
「死にたくなければ、ソレから離れろ」
「嫌だ!僕はリドルと共にいたいんだ。何でお前等に指図されなきゃいけない!?」
 奴等に向かって怒鳴ると、一瞬怯んだ様子を見せたがすぐに持ち直し、間合いを詰めてきた。
「……彼等の言っている事は正しい」
 僕は突然聞こえたリドルの言葉に驚愕した。
 何故リドルから奴等を肯定するような言葉が紡がれるのだろう。彼は僕の味方ではなかったのか?僕が勝手にリドルを味方だと思い込んでいただけなの?
 僕の動揺が彼に伝わったのか、いつも浮かべているのとは違う綺麗な笑みを見せて、さっきよりも強く抱き締めてくれた。

「ハリー、君は僕ではないけれど、ボクは、キミなんだ」

 僕はリドルじゃないけど、リドルは僕?なに、それ。全然分らないよ。もっと分かりやすい言い方で言ってよ、リドル。
「無駄話はそれくらいにしてもらおう。さ、離れるんだ、ハリー・ポッター」
 奴等が一歩踏み出し、僕らが一歩後退する。
 一歩、また一歩。
 嫌だ、こないで。僕は死にたくないんだ。
 背中に当たる冷たい感触にふと視線をずらせば、遥か遠くに地上が見えた。
「逃げ場はないぞ、選ぶんだ」

 Dead or Alive?

 冷たい風が頬を掠める。どうしよう、どうすれば…?
「ぼ……くは……」
 言葉を紡ごうとする僕の唇をリドルは彼自身の唇で塞いだ。

 そして、そのまま僕らは鉄の柵を越えて、落下する。
「…僕は、死ぬの…?」
「そうだよ、君は死ぬんだ」
 リドルの纏っているマントがばさばさと派手な音を立てる。
 周りの風景が高速で過ぎていく。ああ、やっぱり僕は落ちて死ぬんだ。
 せめてリドルから離れないように強く、強くしがみついた。
「君と、一緒に…?」
 僕の言葉にリドルは鮮やかな笑顔で頷く。
 少しだけ、風をきる体が暖かくなった。
「そう…なら、それも良いかもしれないね…」

 僕は来る未来と彼に向けて、最初で最後の笑顔を浮かべる。


そんな夢を見た

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