2/13深夜

「ねぇ…ハリー、本当にそれ『チョコレート』っていうの?」
「うん、れっきとした『チョコレート』だよこういう商品があるってルーピン先生が教えてくれたんだ」
「そう……まぁあげる人が人だからそれでも良いのかもしれないけれど」
 僕は手を休めずに擂り鉢の中に入ったソレをすり潰してゆく。
 元来持っている油分が出てきてその内ペースト状になるという仕組みだ。これならば火気を使わずともチョコレートを作る事が出来る。ただ…疲労度はひとしおだが。
「にしても何でハリーがチョコをあげるわけ?大体バレンタインっていうのは女の子のイベントという気がするんだけど」
「東洋の習慣で好きな人に告白する日だ、って聞いたよ?」
「まぁ…それはそうだけど……」
「あ、動かないように押さえてて」
「はいはい」
 そんな他愛もない会話を続けながら僕達は後何時間後にせまる世紀の一大イベントに備えるのだった。
 大体仮にも恋人同士になったハズなのに好きだ、の一言は勿論名前でさえ呼んでくれないってどういう訳?まぁ教師と生徒、憎みあってる者同士という世間の評価上そうならざるをえないのも分かる気はするけれど…。にしてもあの人の場合素っぽいから余計に腹が立つ。
 せめて二人っきりの時くらいハリーって呼んでくれてもいいと思うのだけど。

 やるせない気持ちを押し殺すように僕は更にすり潰す速度を上げた。

 2/14当日

「じゃあ、今日一日生き延びられる事を願って」
「うん、お互いに」

 幸運を。

 そうして僕らは戦場にくり出した。
 勿論今朝方ようやく出来上がった例のチョコは持って来ていない。これも学習効果というもで、何故か毎年僕宛にチョコレートが沢山くる。初めは物珍しいからだと思っていたけれど、どうもそうではないらしい。ロン曰く、僕は人気があるそうだ。
 僕としてはなんだかピンとこないんだけど。
 そんな訳で他の貰ったチョコレートに潰されてはいけない、と寮の部屋に置いてきた。
 行動は授業が終ってから。なんだかんだ言ってスネイプ先生もスリザリン生には人気がある。グリフィンドール生の僕がチョコを渡すという事を嗅ぎ付けられでもしたら確実に邪魔が入る事だろう。不安要素は少しでも取り除かなくてはならない。
 早く夕方にならないかな…授業が終了する度に増えていくチョコレートを微妙な眼差しで見つめながらそれだけを考えていた。

 ようやく一日の授業が終了し、これからが僕の正念場。
 僕の姿を見つけては追い掛けてきてチョコを渡そうとする女生徒からなんとか逃げきり、目的の場所まで一気に駆けてゆく。
「先生!」
 重厚な扉を勢い良く開ければそこには機嫌の悪そうな恋人(一応)の姿。
 そして予想通り…というかなんというか、ベットの上には山積みのチョコレートらしき包み。
「なんだ、騒々しい」
 いつもと変わらぬ表情で(眉間の皺が多いような気もするが)扉を閉めるように指示する。
「先生…それ?」
 僕はベットの上にぞんざいに置かれている色とりどりの包みを指差し言った。中味は分かっているのだけれど、先生がその包みをどう思っているのか知りたかったのだ。
 まぁ、答は予想出来ているけれど。
「くだらんな。こんな事に時間を費やしている暇があるのならば授業の予習でもしていてもらいたいものだ」
 予想通りだけど、きつい台詞。特に時間という点では、普通にチョコを溶かして作るよりも数倍の時間を費やした身としては耳に痛い言葉だった。
 やっぱり失敗したかな?持ってこない方が良かった??こんなところで軽蔑されても嫌だしなぁ…自分の中にとっぷりと浸かっていると不意に先生は僕の後ろ手を指差した。
「ポッター、それはなんだ」
「ええ!?あ、いや…チョコレートとか全然そんなものではないですから!はいっ!!」
 僕の答に深いため息を一つ漏らし先生は空いている椅子に座るように促した。
「貴様も徹夜組か……」
「えええ!?全然そんな事ないですよ!きっかり8時間睡眠をとりました!はい!!」
「ポッター……目の下に隈を作っていては信憑性にかけるという事を覚えておけ……」
 更に深いため息を漏らした後何故か先生は僕の方に手を差し出した。
 なに?お手、とか?
 ただでさえ睡眠不足で思考能力の足りなかった僕は思い付いた通りに行動してしまった。
「…………誰が手をのせろと言った………」
「え…?違うんですか……?」
 だんだん先生の眉間の皺が増えてゆく。これでは本格的に怒らせてしまうのも時間の問題だ。
 こんな僕にはもう付き合ってられない、といった風に先生は渋々言いづらそうな口を開いた。
「その、後ろ手に持っているものを出せ」
「え!?ですから、これは…その、あ、全然先生の気に入るものではないので!」
「気に入る、いらないは我輩が決める事だ」
 これ以上口論していても僕の望む結果は得られない。仕方なく僕は今まで隠していたチョコを先生に手渡した。
「あの…本当に……捨ててしまって結構ですから…」
 おそらく去り際に無理矢理渡されたのであろう、ぞんざいな扱いを受けているチョコの山を見て僕のチョコもきっとあの一角に埋まってしまうのだろう、と哀しい気持ちが過る。
「…受け取らんとは言っておらん」
「え?」
 今言われた事を頭の中で反芻している間に先生は僕のチョコを執務机の方に持っていき、置いた。てっきり他の物と同じ扱いを受けると思っていたのでこれはかなりの伏兵だ。
「どうせ貴様の事だ。我輩が食べれるような物を作ったのであろう」
「え!?あ、はい、そうなんですよ!先生甘い物とか苦手そうだったんで…カカオをすり潰して、純度100%のものを固めたんです」
「ふむ……気分転換くらいにはなりそうだな」
 今日初めて出た肯定的な台詞に、ようやく受け取ってもらえたのだ、という実感が湧いてくる。

 古今東西恋愛とは好きになった方が負けというけれど

「先生」
「なんだ」
「………有り難うございます」
「………うむ」

 さて、敗者はどちら?

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はい、スネハリ的バレンタインでした。
校正がめっさ遅れてしましましたがようやく完成品をアップ。(遅すぎ…)
投票して下さいました皆様、有り難うございました。