ここは何処だろう?頭の奥がずきずきする。
 あれ…?この天井は寮の自室ではない。ではここは?
 医務室だ。
 ああ、そうか。僕は階段から落ちたのだ。ピーブズの嫌がらせが何故か凄く気に触って…アイツを振払おうと手を横に振って…バランスを崩したのだ。
全くついてない。なんでこんな目にあわなければならないんだ。脳裏に蘇るのはロンとハーマイオニーの叫ぶ姿と…黒い、影。きっと心配してる。又迷惑かけちゃったなぁ…後で謝らないと。そうそう、マダム・ポンフリーにお礼を言わなきゃ。幸い怪我も擦り傷程度ですんでいるし。
 ベットから這い出て側に置かれていたローブを手にとる。
 その時、聞き慣れない声を耳にして僕はベットを仕切っているカーテンを開けた。
「ハリー大丈夫ですか?全く無茶をして」
「はい、もう大丈夫です。御心配をおかけして申し訳ありません」
 一礼をしてマダム・ポンフリーと今まで話していた人物を見上げる。
 ……こんな人ホグワーツにいたっけ?それとも魔法省の役人さんか誰かかな?
「あの…」
「どうしました?どこか痛むんですか?」
「いえ、そうではなくて」

 そちらの方はどなたですか?

 僕は、最後に見た黒い影。セブルス・スネイプその人を指差し、言った。

「記憶障害!?」
 談話室に戻りマダム・ポンフリーから言われた事を二人に話す。
「しかもスネイプを忘れた!?」
 二人の言葉に僕は頷く。
「落ちる前に一瞬見たような記憶はあるんだけど…」
「そりゃそうよ!ハリーを運んでくれたのはスネイプなんだから!」
 ハーマイオニーが微かに青ざめた顔色で叱責する。よりにもよって…と何度もくり返すのでいい加減僕もいらいらしてきた。彼はそんなに忘れてはいけない存在だったのか?たかが一教師に何故二人はこんなにも熱くなるのだろう?
 理解出来なかったけどここで口答えしようものなら、更に糾弾されそうな気がして僕は口を閉じる。世の中言わない方が良い事も多々あるものだ。
「今は…記憶が戻るのを待つしか無いわね…」
「ねぇ僕とその…スネイプってどんな関係なの?」
「…話せば長くなるし…僕達が口を出せる事じゃないから…ねぇ?」
「ええ。ま、長期戦でいきましょう?何かの拍子に思い出すかもしれないし」
 全然答になっていない二人に訝し気な視線を投げかけ、僕は自室に戻るべく歩き始めた。判らないのに考えても余計に頭が混乱するだけだ。こういう時は寝るに限る。
 もしかしたら明日起きた時には何か思い出すかも知れないし。
 淡い期待を胸に秘めながら僕は床についた。
 眠る前にもう一度スネイプの事を考えてみたが、これといって思い出せる事は無かった。

 翌日の魔法薬の授業中にスネイプ、という教師を観察してみたが。嫌なやつじゃないか。自分の寮ばかり贔屓するし。あわよくば減点してやろうというオーラがこれでもか、と滲み出している。
 この人と自分の間に一体なんの関わりがあるというのだろうか?
 一生徒と一教師。それ以外のなにものでもない。
 考え事をしている間に授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

 記憶障害になってから1日経ち、2日経ち、一週間が経過したけれど、スネイプについて思い出せる事は何一つなかった。
 幸運にも帚の乗り方は忘れていなかったので、僕はクィディッチの練習に精を出す。別に彼の事を思い出せなくても何も支障は無い。しかも敵対するスリザリンの寮監だ。無理に思い出す必要もないだろう。

 そうして更に3日が経過したある日、いつもと同じように一日の授業を終え寮に帰る途中、件の人物セブスル・スネイプを視界に捉えた。

 瞬間、ハーマイオニーの言葉が蘇る。何かの拍子に思い出すかも知れないし。
 午後の黄昏に翻る黒いローブ。その、後ろ姿。
 突然僕は彼に向かって走り出した。
「ハリー!?どうしたの!?」
 二人の僕を呼ぶ声がとても遠くから聞こえた。己の心音だけが大きく脳に響く。
 ロンとハーマイオニーの声に前方を歩いていたスネイプがゆっくり振り返る。

 ああ、そうか。
 僕は走る勢いを止めないまま彼に抱き着いた。
「………ポッター…何を、している…」
 硬直した彼の体を強く抱き締め、僕は言う。

 思い出した。そう、僕は…

「あなたが好きなんだ」
 僕の発した言葉にスネイプの動きは完全に止まった。ついでに後方の二人の動きも止まった。
「……血迷ったか、ポッター」
 困惑した顔で僕の事を見下ろすスネイプ先生に、花のような笑顔を披露して僕は続けた。
「好きなんです。貴方が僕を嫌っていても、僕は貴方が、好き、なんです」

「……我輩は貴様の父親を憎んでいる」
「はい」
「貴様はスリザリンにとっても我輩にとっても目障りな存在だ」
「はい」
「だが二度は言わん」
「はい」
 微かに身をかがめて、僕の耳もとで先生は囁いた。僕にだけ聞こえるような小さな声で…

「………ハリー……お前と、同じ気持ちだ」
「……はいっ!」
 嬉しくて、彼を忘れていた十日間が悔しくて、もう一度強く彼に抱き着いた。
 もし今まで通りだったら、きっとこんな行動には出られなかっただろう。記憶を失って、初めて彼に対する思いの重要さに気付く事が出来た。

 たまには記憶障害も悪くない。

 寮に帰った後、人が来たらどうするつもりだったんだ!とか考えがなさすぎる!とか、さんざん二人に説教されたあげく、貴方の呼び名は明日からバカップルよ!と宣告されたのは又別のお話。

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お約束の記憶喪失ネタ。そしてバカップル様御誕生〜〜。
スネハリです。決してハリスネではありませぬ。
…というかスネハリはハリーが動かないとどうにもなりませんよね難しいわぁ…
甘々は今後の課題です。