いつものように、無視して流せれば良かったんだけど
「何だって?」
その時の僕はどうかしていたのかもしれない。
シリウスは僕の名付け親だ。すなわち彼は僕にとっては家族なのだ。
なんとか無実は証明されたけど、人の思い込みはそう簡単に覆せるものじゃない。
だから彼は未だ人気の無い所でひっそりと時を過ごしていると手紙に書いてあった。
そう、僕には時々来る手紙だけでしか彼の生存を確認する事が出来ないのだ。
シリウスは危険があるかもしれない、と未だに所在を明かしてくれない。その事に僕がどれだけ押さえきれない気持ちを抱いているかも知らないで。
もし彼が自分の知らない所で死んでしまったら。
もし彼が自分の前から姿を消したら。
毎日不安を抱えて生きる僕の心を知ってか知らないでか、アイツは言ったんだ。僕が一番聞きたく無い言葉を。
「何度でも言ってやるよ。最近手紙が来ないみたいじゃないか?君のシリウスに『何か』あったんじゃないのか?元、脱獄囚だしな。恨みも沢山あるだろうし!」
硬直した僕の顔を見て、アイツ、ドラコ・マルフォイは勝ち誇った笑みを浮かべた。
後ろに控えているクラップとゴイルもドラコに合わせるように高笑いをする。
思わず僕は俯いた。
僕の行動に気分を良くしたのか彼等の笑い声は更に酷くなる。
耳障りだ、とても。
「ハリー気にするなよ。もう行こう、な?」
ロンが僕の肩に手を置いて耳もとで囁く。気遣ってくれているのだろう、肩を強く掴まれた。
彼の手に己の手を重ね、顔を上げる。
瞬間、笑い声は消え、彼等の顔色が急変化する。なんとも滑稽な場面。
「だから、何?ドラコ・マルフォイ」
自分でも何故こんな声が出せるのか判らない。でもドラコ達には随分と効いたようだった。
「手紙が来ない?それで何故彼の身の心配をしなければならないの?何でも単純に結果に結び付けるのは君の悪い癖だね。将来の為にも改善する事をおすすめするよ」
肩にのっているロンの手を優しく下ろし、僕はローブの裾を翻した。
「こう見えても僕は暇じゃないんだ。用件がすんだのなら失礼するよ」
それでは、ね。
にっこりと、とびきりの笑顔を披露して僕達はその場を後にした。「ヘドウィグ!」
部屋に帰るなり後ろ手でドアの鍵を閉め、僕は彼女の入っている籠を開け己の手に止まらせた。
突拍子もない行動に戸惑っているのか、彼女は首を傾ける。
「君ならシリウスの居場所を知っているね?」
僕の言葉に少し躊躇いながらヘドウィグは首を横に振った。
「ねぇ、ヘドウィグ?君の御主人様は、誰だっけ?」
底冷えするような僕の笑みに、今度は微かな声でホーッと鳴く。
「ならば、僕を案内するんだ。彼の所まで」
「ハリー?ハリー、どうしたんだ?ドアを開けてくれよ」
控えめにロンが部屋のドアを叩く。もう時間がない。
「さぁ!早く!」
僕は部屋に置いておいたファイアボルトを手に持ち、彼女を無理矢理窓から投げた。
こうして、僕はホグワーツを脱走したのだ。「ねぇ、シリウス最近ハリーに手紙を書いていないようだけどどうしたの?」
見る方が胸焼けするくらいの砂糖を小さなカップに入れる。
砂糖の入る瞬間を見ないようにと顔を背け、シリウス・ブラックは苦々しく呟いた。
「ハリーももう年頃だ。私がハリーに手紙ばかり書いていると彼は親離れ出来ない、と思われるかと思って……」
「君がハリー離れ出来ないだけだろう?」
リーマスが砂糖の固まりの液体を、それこそ優雅に口に運びながら呟いた。
「歳月を重ねたところでハリーが愛情に飢えていた過去は消えないよ。その過去がある限りハリーは愛情に貪欲にならざるをえないと私は思うけどね」
手紙の返事は書いた方が良い。礼儀的にもね。
喋る彼の手元を見れば、すでに悪夢の固まりのような液体は無い。
糖尿病になるぞ…と心の中で愚痴りながらもシリウスは悩んでいた。果たして今まで通りハリーに手紙を書き続けても良いものだろうか?それとも己の決断通り、ハリーを一人立ちさせる準備を進めるか。
後継人、といってもいつまでも彼と共にいられる訳では無い。
いつかはハリーだって結婚もするだろうし。自分の寿命だって尽きるだろう。……やはり私がハリーから離れられないだけか…
「シリウス!」
リーマスの言葉で我にかえり、彼が指差す方を見ると…
「ヘドウィグ?じゃないか………っ……!?」
「今日和…あれ、もう今晩和、かな?」「ハリー!?」
立ち上がった勢いで各々の椅子が倒れる。
唖然、とする二人をよそ目に魔法でバルコニーの鍵を開け、僕は帚から降りた。
「えへへ……来ちゃった」