多少驚きながらも、きっと彼は温かく迎えてくれる。そう、信じて疑わなかった。
ぎゅ、っと抱き締めて、お帰りと言ってくれると。
「ハリー……何をしに来たんだ。帰りなさい」
「ちょっとシリウス!?」
「君は未だ休みではないだろう?何故こんな所に居るんだ。まさか抜け出して来たのか!?」
予想外の台詞に僕の頭は働く事を止めたようだった。
なんで?だってシリウスが心配で…
シリウスは僕の事が邪魔になってしまったのだろうか?
否、何故シリウスは僕にだけ居場所を教えてくれなかった!?
「ハリー?」
ルーピン先生が困ったような顔で僕の方を見る。
大丈夫、僕は泣かないよ……。だって僕は、怒っているのだから!
「僕はシリウスにとって何なの?昔の友達の……シリウスにとってお荷物にしかならない子供?」
シリウスとルーピン先生が互いに顔を見合わせる。
「ハリー?一体どうし……」
「だってそうじゃないか!!僕だけがシリウスの居場所を知らないで!僕がシリウスの居所を誰かに話すとでも思ったの!?そんなに信用ない!?」
もう止まらない。心の中が引っ掻き回されて、自分でも何が言いたいのか判らなくなってくる。
「ハリー、違うんだ」
「何が違うの!?実際にそうじゃないか!手紙の返事だって返って来ないし、もしかしてシリウスに何かあったんじゃないかと思っても確かめる術さえ無い!いつだって僕は只返事を待つしか出来ない!!僕は…本当に………心配…し……」
何時の間にか溢れ出した涙と嗚咽。もっと言ってやりたいのに言葉が続かない。
情けない、何故泣く事しか出来ないのだろう。少しは大人になったと思っていたのに。
「ハリー、シリウスにも考えがあってだね」
「聞きたく無い!言い訳したって事実は同じだもの!」
困った、とルーピン先生が肩を竦める。僕、馬鹿みたいだ。
人の話を聞こうともしないで自分の感情だけを優先して。頭では十分すぎる程判っているのに心がついてこない。
「手紙の事はすまないと思っている。君に居場所を教えなかったのは、知っての通り私には未だ敵が多い。だから君に被害があるやもしれないと……いや、これも言い訳に過ぎないな…本当にすまなかった。どうか、機嫌を直してくれ……な?」
「だったら!」
止まらない嗚咽を無理矢理に押さえ込み、僕はシリウスに抱きついた。
「帰れなんて言わないで………抱き締めて」ハリーは愛情に貪欲なんだよ。
リーマスの言葉が頭の中で木霊した。頭一つ分以上小さいハリーの背中にそっと腕を回し、もう一度すまない、と耳もとで囁く。
まさかこんなに不安にさせていたなんて。ハリーの事を気遣っていると思い込んでいたけど結局の所、己の自己満足に過ぎなかったのかもしれない。
「シリウス、私はダンブルドア校長に手紙を書いておくよ。きっと今頃心配しているだろうから」
部屋の奥の方に去っていくリーマスに目線だけで礼を言い、未だ泣き続けているであろうハリーをもう一度強く抱き締めた。本当に僕は馬鹿だ。我が儘ばかり言って2人を困らせて。
しかし現金なものでシリウスが僕の耳もとで、今夜は泊まっていきなさい。と呟くと、途端に僕の涙はとまった。
「本当に?」
「ああ」
「一緒に寝ても良い?」
一瞬シリウスの顔に朱が走ったようだった。暫く迷っていたみたいだけど結局了解してくれた。
「ルーピン先生は?」
「今ダンブルドア校長に手紙を書いてくれている。ハリー…今度から私に会いたいと思う時には手紙にその事を書きなさい。…迎えに、行くから」
恥ずかしそうに言うシリウスに僕は満面の笑みで答えた。
今までの怒りが嘘のように引いていき、幸福な気持ちで満たされる。
言葉一つでこんなに幸せになれるなんて本当に僕は単純だ。
ここぞとばかりにシリウスに抱きついていると、扉の奥からルーピン先生が出て来た。
「ハリー、疲れただろう?今日はもう寝た方が良いよ。幸い明日は休みだから1日一緒にいられるしね」
片目をつぶって僕にウィンクをした後、怪訝そうな瞳で先生はシリウスを見た。
正確には僕に回されているシリウスの手を。
「シリウス…君まさか私の居ない間に……」
「ち、違っ!誤解だ!な、ハリー?」
残念ながら言いたい事の意図が判らず僕は小首をかしげた。
あ、もしかして寝る場所の事かな?そうだよね、突然お邪魔するんだし。
「大丈夫!僕はシリウスと寝るから」
笑顔でそういうとシリウスの顔は青ざめ、ルーピン先生の視線は更にきつくなった。
あれ…?もしかして欲しい答と違った…のかな?
「シリウス、判っているとは思うが」
「…一緒に寝れない、の?やっぱり僕来ない方が良かった…、よね…」
「違っ!いや、私もっ一緒には、寝たい…」
「ハリー、私と一緒に寝よう。シリウスは寝相が悪いからね。蹴飛ばされて夜中の内に風邪でも引いたら大変だ」
「そんな!リーマス、私はハリー……と、一緒………」
上を見上げればシリウスの額からは玉のような汗が滴っていた。どう見ても冷や汗だ。
ルーピン先生は笑ってるのに…どうしたんだろう?どこか悪いのかな?
調子が悪いのに一緒に寝たら、やはり悪いよね。
「判りました。ルーピン先生と一緒にします!」
それが良い。と先生は微笑んだ。その後のあの男よりは安全だからね。という言葉の意味はいまいち理解できなかったけど。
気が抜けたらど、っと疲れが出て来たので僕は先生の言葉に従って眠る事にした。
勿論最後の我が侭も忘れずに言って。
「じゃあ、シリウス。おやすみのキスして」
僕に回されていた手が一瞬強張ったが、じっと見つめる僕に負けを認めたのか、恐る恐るシリウスの顔が近付いてくる。
僕の額へと。
触れる寸前に、僕は多少の悪戯心を出し、そっと、伸びをした。
僕が動いたせいで額に触れるはずのキスは…唇に、触れた。
おやすみなさい!と満足そうな笑みを浮かべて走り去るハリーを只、呆然と見つめる。
今の、感触は……
己の唇にそっと触れてみると、途端に顔が熱くなるのが判る。
が、リーマスの方を見た瞬間血の気が引くのが判った。怒られる…。
しかし予想とは裏腹に彼は微笑んだ。
「失念していたね。ハリーは…」我らが悪戯仲間、ジェームス・ポッターの息子なのだ。
血は争えないね。とリーマスは殊更嬉しそうに微笑んだ。
……ハリシリ?ルーシリ?!一応シリハリ。