「おい、九龍」
気怠そうに掛けられた声に振り向けば、案の定やる気の無い顔が視界に映る。慣れた手付きでアロマに火を付ける仕草を何気なく見つめていたら、珍しい事にサボリのお誘いが来た。折角のお誘いだ。無下にするハズがない。
「皆守からのお誘いなら何処だって付き合っちゃうよ、俺!」
「…お前、まさか、ワザと言ってないだろうな…?」
酷く嫌そうな顔をする皆守に、心外だ。と強く訴えれば、はいはい。と軽く流されてしまった。
「いらっしゃいませ〜!! マミーズへようこそッ」
いつも元気な奈々子ちゃんと軽く挨拶を交わし、目的の席に座る。
「俺は、いつもの」
メニューも見ずに注文するツッコミに、天然ちっくな奈々子ちゃんのツッコミが入る。軽い口論をする二人を見ながら、俺は一人の人物を思いだしていた。色んな種類があるにも関わらず、いつも頼むのは同じ物。今でも味が思い出せる程通い詰めた店。彼は今頃どうしているだろうか?
「九龍、お前はどうする?」
「え?」
「注文だよ、注文」
「あー…それじゃラーメ…」
「俺のオススメといえばこの辺りだが」
人の話をナチュラルに流しながら、指し示すのはカレーの項目ばかり。そうか、こいつも同じ人種であったか。
苦笑混じりにカレーライスを頼めば、微妙に嬉しそうにする皆守。
こいつ本当にカレーが好きなんだなぁ…。アロマなんて物を常備しているくらいだから、あまり香りのきつそうな物は食べないようなイメージがあったが。
注文が来るまでの暇な時間に店内を見回してみる。確かに学園内にあるにしては良い雰囲気の店だ。これからの季節は寒くなるだろうし、さぼりたくなったらこの店に来るのもいいかもしれない。
「ホントだって。オレ、この前見ちゃったんだよ!!」
そう遠くない席から男子生徒の話し声が聞こえてくる。どうせ暇だし、と話の内容に耳を傾ければ…何か物騒な感じがした。
墓守が何か埋めていた。その正体を確かめてみよう。とかなんとか。確か墓地は立ち入り禁止区域ではなかっただろうか? まぁ俺が言うのも変な話だけど。
「お待たせしましたー」
「お、来たか」
目の前に置かれたカレーを口に運べば確かに美味い。成る程皆守がオススメするだけはある。
「そういえば、お前にはまだちゃんと話してなかったな」
カレーを口に運びながら、皆守が《生徒会》について説明してくれた。どうやら《生徒会》には《役員》と《執行委員》というのが居るらしい。一般生徒に紛れ込んでいるという点では、《執行委員》の方がタチが悪い。しかしそこまでして守らねばならぬモノがあの遺跡にあるというのだろうか? 予想外の厄介ごとに軽い眩暈を覚える。
俺の中では旧校舎と同じような感じだと思ってたんだけどなぁ…。
心の内でぼやきながらスプーンを動かせば、カツンと軽い音がした。どうやら気付かぬ間に完食していたらしい。
「あひゃああああ」
突然発せられた奇声に思わず手元のスプーンを取り落とした。
声のした方に視線を向ければ、奈々子ちゃんが小箱を持って狼狽えている。てかあの箱煙出てるし…。冷静に分析している間にも煙はどんどん立ち上り、奈々子ちゃんが口にした爆弾、という単語に辺りは騒然となった。
「どどどどどどうしましょうコレコレコレコ」
「馬鹿ッ!! いいからそこから離れて伏せろッ!! 九龍ッ」
「お前もな」
警告を発する皆守の足を横に払い、その上に覆い被さる。
「なッ……」
「悪ぃな、重くて」
何か言いたそうだが、この際気にしてられない。
苦情なら後で聞く、と一蹴し俺は皆守の頭を抱え込んだ。
「これは、いけませんね」
初老の男性の声が聞こえる。直後、少し離れた所で爆発音が響いた。
「ふーやれやれ」
「ッ……馬鹿か、お前。俺なんか、庇う必要はないんだよッ!」
「何言ってるんだ、皆守。お前の顔に傷でもついたらどうするんだよ」
それこそ一大事だろ。
俺の言葉に皆守が息を呑むのが分かった。
爆弾騒ぎが一段落ついたと思ったら、今度は千貫さんと、境さんの…皆守曰く、ジジイ頂上決戦が始まってしまった。
巻き込まれたくないとばかりに退散しようとすれば、境さんから後掃除を任命されてしまい。やれやれ、ツイてない。いや、ある意味ツイてるのか?
へとへとになった俺を待っててくれたのは、他の誰でもない皆守で。
「別に、お前を待ってた訳じゃない」
言い訳じみた台詞を聞きながら顔がにやけてしまったのは仕方ない事だ。
午後、廊下であの皆守に親しそうに話しかける人物と出会った。夕薙と紹介された彼から発せられる微妙な氣。この感じには覚えがある。そう、これは…。
「まぁ人にはそれぞれ事情ってのがあるものだ。そうだろう? 《転校生》君?」
「へっ? あ…はぁ、そうですね。今後宜しく」
君の噂も聞いている、と言われてしまったが…俺の噂ってなんだろう。人にバレるような怪しい振る舞いはしてないつもりなんだけどなぁ。俺が下手に動いて、H・A・N・Tの持ち主である葉佩君に泥を塗るわけにはいかない。しっかし…当人は今頃何をしているんだか。
夕薙と別れたあと、俺達はやっちーに見つかった。まぁ別に授業なんて出てもでなくても構わないし…と思っていたらやっちーに捕獲され、連行されてしまった。
理科室で楽しげに機材を手にするやっちーを見ていると、授業に出て良かったな、と思う。
「ん? 何だ、この箱…」
「おい、これ…、さっきも見なかったか?」
数秒後、俺の幸せ気分は爆発音と共に崩壊した。
ああ…やはり今日はツイている。
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