「ねッ、九チャンはまたあの遺跡に行くんでしょ?」
 登校した途端やっちーからそんな事を言われ、苦笑を浮かべつつも俺は肯定の意を返した。どうやらやっちーは殊の外あの遺跡がお気に召したらしい。今宵も付いてくる来る気が満々らしい彼女に、自分の身の安全を一番に考えてね、と言葉を紡げば軽く頬を赤く染める。
 やはり女の子って可愛くていいなぁ。
 ぼんやりと考えていたら図書館に誘われたので一緒に行く事にした。
 七瀬さんに昨日疑問に思った事を問えばなかなか興味深い答えが返ってくる。
 エジプトとの共通点、日本ピラミッド。神話になぞられた敵…。そしてあの黒い砂。今は未だ分からない事が多すぎるが、いつか一つの答えに辿り着くのだろうか。数多の分岐より導き出される答えの向こうに何があるのか。
「…お前はどうする?」
「え?」
 やばい、全然聞いてなかった。
 妙な笑顔を浮かべる俺に、皆守がやれやれと言った表情でもう一度質問を投げてくれる。ああ、午後の授業に関してね。
 そりゃ勿論。
「お前と授業に出るに決まってるだろ」
 それ以外の選択肢があるか?と問えば、何を考えているんだ、と言わんばかりに、皆守は特大級のため息をついた。
 皆守の後を付いていく事数分、階段の踊り場で取手と出会った。うん、前よりも顔色も良いみたいだし、大丈夫そうだな。取手と軽く言葉を交わし、音楽室の鍵を貰う。これで次からは音楽室も探索出来るって訳か。
「あいつは…お前のおかげで救われたんだろうか?」
 取手が去った通路の向こうを見つめ、皆守が呟く。
「皆守早く行かないと遅れちゃうぞ」
「あ?あァ…そうだな」
 だから俺は、いつもと違う雰囲気を纏う彼に気付かない振りをしていた。
 通路で黒塚に糾弾されつつもなんとか逃れ、美術室の鍵を拾ったので白岐に返す。
「どうしてわざわざ私に返したりするの?」
「そういう風に言われると…俺も困るんだが、これが無ければ君は不便な思いをするだろ?俺のしたこと、迷惑だったかな…?」
「いいえ…そんな事ないわ」
 貴方に差し上げます、と美術室の鍵を貰ってしまった。今日の昼休みは色々忙しくなりそうだ。

 昼休み、いつもの如く色々徘徊していた俺に何故か声がかかった。
 聞き慣れた声に振り返ってみれば、普段屋上にいる皆守が背後に立っていた。ふむ…珍しい事もあるものだ。
「どうした?」
 疑問を言葉に乗せれば、何故か視線を逸らす皆守。
「何か用でもあったのか?」
 促せばはっきりとしない答えが返ってくる。
「ただ、見つけたからだ」
 はぁ…成る程。俺の姿を視界に捉えたから声を掛けてくれたって訳か。何かいいなぁ…こういうの。知り合いっつーか友達って感じでさ。
 そういえば以前はいつも誰かしらと一緒に居たな、と思い返せば、今の状況はとても異質なものである気がした。いつから一人という事に慣れたのだろう。卒業した後も数年は仲間と一緒に居たし。考えてみればみる程、境界線は曖昧だった。エジプトに行く前は中国にいたし…。そういえば何故単身エジプトに行こうと思ったのだろうか?
 単に相手の都合が合わなかった…?いや、違う。
 一人になりたかった…?これも、違う。
 ではなんだ。
 中国の竹林に飽きた訳ではない。修行に飽きた訳でもない。では…。
「呼ばれた…?」
「どうした?葉佩」
 どうやら思っていた事が言葉になっていたらしい。訝しげにこちらを見てくる皆守に、ちょっとね。と曖昧な答えを返して今一度思考を巡らす。
 そう、エジプトに行ったのは何故か行かなければ、と思ったから。
 乾いた風と、砂と、歴史に覆い隠された何かに…呼ばれた?
 運命には逆らえないと、ある人は言う。
 運命さえも惹き寄せそうな、とあの老人は言った。
 ならば…今俺がここにいる訳は。
「皆守」
「なんだ…?」
「これから俺の事は九龍って呼べよ」
 確信的な笑みを浮かべて言えば、唖然としたような表情を浮かべる。
 そんな彼を後目に、俺は短い昼休みを好奇心の為に潰す事にした。

 今俺が置かれている状況は、元々用意された俺の運命だったのか、それとも…俺が惹き寄せたものなのか。
 どちらにしろ。
「人生楽しまなくっちゃ損、ってね」
 鼻歌交じりに呟いて、慣れた動作で鍵を開けた。

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