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「みんな静かに」
この感覚、懐かしいなぁ。隣で話す雛川という教師の声を聞きながら、以前もこうやって教壇に立った事があったな…と昔を懐かしんでみた。
紹介が終わり一段落ついた昼休みに、八千穂と名乗った女子生徒に校内を案内してもらう事になった。ここ天香學園にはトレジャーハンターとしてやって来た訳だが…取り巻く空気から察するに、どうやら予想以上に厄介な事になりそうだ。これから始まるであろう波瀾万丈な生活に、多少なりと興味を持ちながら學園内を歩いていく。
図書室では八千穂さんの友達に会い、その後購買で境と名乗る用務員と一騒動起こし、廊下では不思議な雰囲気を纏う少女に警告を受けた。
眠りを妨げる者には、災いを……ね。今回のキーポイントは墓地。濃い闇の中に存在する墓穴の中に眠るモノとは一体なんなのだろうか。頭の中で色々な事を整理しにかかる俺に、今度は屋上へ行ってみようとの声がかかった。
整理が上手くいかない時は風に当たるのも良い。彼女の言葉に賛同して、屋上への階段を上っていく。屋上へと続く扉から微かに漏れてくる冷たい空気に、一瞬何かが反応した。再度神経を澄ましてみても、これといって変わった節は見られない。ただの勘違いか…?
「どうしたの?葉佩クン?」
「あ、いや…なんでもないよ」
考え込む俺を心配そうな顔で見つめてくる彼女に、笑顔で答えながら錆び付いた重い扉を押し開けた。
「これは絶景だね」
見渡す限りの青。遠方に広がる緑。
まるで絵に描いたようとはこういう事をいうのではないだろうか。
俺の感想に気を良くしたのか、色々と見える範囲の場所を説明してくれる彼女。俺は彼女の言葉を忘れないように、頭の中に地図を描き全体像を作っていく。なるほど、噂の墓地は森の方角という事か。
話し込む俺達に、突然声がかけられた。
「あ、皆守クンッ!」
ミナカミ…?口に何かを銜えながら気怠そうな雰囲気を醸し出す、ミナカミと呼ばれた彼の方に向き直れば、先程感じた何か、が理解出来た。
この香りだ…。
彼から漂ってくるラベンダーの香り。これが先程扉の隙間から流れてきていたのだ。普通の人間では気付かないだろうが、新しい場所に来て神経が敏感になっている今の俺は、どんな小さな事にでも過敏に反応してしまう。
とりあえず一つの疑問が解けて良かった。
「初めまして、俺は葉佩九龍」
ミナカミに向かって笑顔で言えば、彼は気怠そうに頭を掻くだけ。
「……皆守甲太郎」
一応返事はしてくれるらしい。
「ミナカミ……皆……守…ね」
「なんだよ」
怪訝そうに尋ねてくる彼に、なんでもない、と苦笑混じりに返答する。
ああ…そうだ。彼に会った時から感じていたこの違和感。
似ているのだ。
あの気怠そうな雰囲気も、何もかもが。
「ここでは…君がそうだと言う訳か………」
「なんだって?」
「いや、知人に似ていたものだからさ。気を悪くしたなら謝るよ」
「…?…まァ…良いけどよ」
その後生徒会には気を付けろとの忠告を最後に、皆守は何処かへ行ってしまった。
下校の鐘が鳴り響く中、俺は皆守と男子寮までの道のりを共に歩いていた。どうやらこの學園では生徒会が全ての実権を握っているらしい。特殊な學園事情に、特殊な墓地。普通に考えても胡散臭すぎる。
この學園に眠る秘宝…か。
皆守と話ながらも、俺の意識は墓地へと引き寄せられる。
部屋に帰ればロゼッタ協会から葉佩九龍宛に送られてきた荷物が届いていた。…こんな物騒な物送ってくるなよ。トレジャーハンターという職業に一抹の疑問を頂きながらも、届いた荷物を手際よくしまっていく。
手違いといえども、この學園にいる間は葉佩九龍として生活しなくてはならない。本当の彼の為にも頑張るしかないと、着慣れないアサルトベストに手を通し深夜の探索へと出かける事にした。
結果から言えば、本日の収穫はゼロだ。
いざ墓地に着きこれから探索するぞ、と気を引き締めた時に八千穂さんに出会った。彼女と色々話している内に今度は皆守が。そして駄目押しとばかりに墓守が。皆守の助言もあって今日の所は見逃してくれるらしい。取り敢えず地下へと続く妙な穴は見つけた事だし、まぁ今夜はこれで良しとしよう。
仕方ないので自室に帰りH・A・N・Tを弄ってみる。そういえばハンター専用のサイトがあるとかって書いてあったな…。端末に送られて来ていたアドレスを、自室に設置されているパソコンに打ち込んでいく。ID認証が終了した後、興味深いページがいくつか表示された。
ロゼッタ協会が管理するギルドサイトでは、どうやら依頼を請け負う事が出来るらしい。なるほどここで資金を稼ぐと言う訳か。
そしてもう一つのサイトは……。
「………あいつ…こんな事にまで手を出したのか…」
JADEショップへようこそ、と聞き慣れた声がマシンから発せられる。名前を変えてもばればれだっつーねん。商品は相変わらずぼったくりも良いところな値段だし。サイトに書かれているメールアドレスに苦情のメールでも書いて送ってやろうか?
メールソフトを起動し、アドレスを打ち込む。
そこで、思い出した。今の自分は、葉佩九龍だと言うことに。葉佩九龍がJADEを知っている訳がない。無念の思いを抱えつつ、メールを送る事は断念した。
「あーあ何か暇になっちゃったな」
薄暗い天井を見つめていれば、思い出すのは今日出会った皆守という青年の事。色々と親身になって規則を教えてくれたが…。
恐らく、俺の抱いた考えは間違っていないだろう。
これからきっと彼の日常は乱されるに違いない。他の誰でもない自分によって。
だが、気になってしまった。あの気怠そうな雰囲気の奥底に、虚ろそうな瞳の遙か遠くに。
あの瞳に自分を映してやりたい。彼が自分の事を考えるようになればいい。そして、いつか…。
「ご愁傷様、ってやつだな…」
今後の彼の生活を想像して一人苦笑を漏らした。
まだ、夜は明けない。
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