鋭い銃声を一つ響かせれば、呼応したように響く声ならざる音。規則的に繰り返される音は、ある種の音楽にも似ている。
 H・A・N・Tの告げる電子音を最後に、空間には静寂が舞い降りた。
「さて、と。これで心おきなく探索が出来るな」
 九龍の嬉しそうな声と、弾丸を補充する音が空間にこだまする。H・A・N・Tを片手に歩き回る九龍の姿は、まるで遠足に来た子供の様。むやみやたらに壁を叩いたり、石像を眺めてみたり。気でも触れたのだろうか。と思われる行動の数々が、次への道を開く鍵だというのだから皮肉なものだ。
「皆守ーーぼさっと突っ立ってないで、手伝ってくれよ」
「だりぃ…」
 お決まりの台詞を吐きながらも、九龍の手招きをする方に歩みを進める自分は、つくづく彼に甘いのだと思う。甘やかしている気はないが、請われるままに手を貸すのも真実。深入りしてはいけない、と思う反面彼の誘いを断れないのも事実。
「んで、俺にどうしろって」
「ちょっとここ照らしててくんね?」
 とある石像の裏に掘られた文字を解読しようとしているらしい。絵文字にしか見えないそれを、九龍は真剣な顔で見つめ、手元にあるH・A・N・Tの情報と照らし合わせていく。彼曰く、お宝に巡り合わせてくれる素晴らしい情報らしいが、俺からしてみればただの落書きだ。それを本人に言えば機嫌を悪くするのは目に見えているので口にはしないが。
「向こう側を………次は………」
 何かを呟きながら、また歩き始める九龍。
「あ」
 カチリ、という動作音と、九龍の声が聞こえたのはほぼ同時だった。
「ごめーん失敗しちった」
 語尾に音符マークでも付きそうな気軽さで、言葉を紡ぐ彼。
 取り囲むようにして向かってくる化人。
 おいおい、冗談だろ?
「まったくツイテないなぁ」
 自分の事を棚に上げ、九龍は戦闘準備に入る。
「もてる男は辛いよ、ってな」
 手近な化人から次々と屠っていく九龍を、俺はいつもの如く見つめ続けるだけ。
「なぁ皆守」
「あぁ?」
 戦闘中に九龍が話しかけてくるのは珍しい。他のバディと違って攻撃的な事は一切しないので、戦闘中に余計な音が混じる事は無いのが常。
 だから九龍が戦闘中に口を開くのは非常に珍しい。外に出たら槍でも降ってくるのではないかと思ってしまう程、ありえない事態だ。
「時々思うんだけどさ」
 話ながらも目線は化人を射抜き、手元の銃が照準を誤る事は無い。
「今ここにいる化人達は、いつの時代からいるんだろ」
「………?」
「どんだけの長い間ここにいて、何を考えてるんだろう」
 また、変な事を。
「俺が遺跡に入らなければ、こいつらと遭う事なんて無かった訳だし。そうすると…こいつらはまたいつかくる訪問者を待ち続けて時を重ねる訳で」
 一体九龍は何が言いたいのだろうか。
「な、そう考えると凄く不思議じゃねぇ?」
 九龍がこちらを振り向けば、最後の化人が光となって闇に溶けた。
「俺はお前の頭が理解出来ねぇな」
「うっわ、それ酷くね?」
「別に」
 紫煙をゆっくりと吐き出せば、煙の向こうに九龍の拗ねたような顔が見えた。
「だってよ、あいつらと俺達の所有する時間は違うのに、今ここで対峙してる時は同じ時を共有してると思うと…なんか神秘的な感じがするね!」
 今更ながらに《宝探し屋》という人種が分からなくなってきた。 いや、九龍と他の宝探し屋を一緒にしたら、他の人達が可哀想かもしれないが。
「あ、お前今俺の事馬鹿にしただろ」
「あ? してねーよ」
「嘘だ、絶対馬鹿にした。顔にそう書いてある」
「言いがかりだな」
 アロマパイプをくわえ直し先へ進むよう促せば、渋々といった表情で罠を解除しにかかる。
「皆守ぃ…後で覚えてろよ……カレー作らせてやる」
「なんでだよ」
 意味不明な九龍の恨みを一手に引き受けながら、アロマを吸い込めば何故か酷く埃っぽかった。
「九龍」
「んー?」
 名前を呼べば、生返事が返される。
「いや、なんでもない」
「後少しで解けると思うから、待っててなー」
 いつも行動的で、動いてなければ死んでしまうのではないかと思える九龍と、変化を嫌い、時にただ流されいるだけの俺と。
 むしろ化人よりも、自分達が一緒に居る事の方が不思議だ。
 九龍が俺の中に踏み入って来ているのか、俺が九龍に引きずられているのか。
 どちらにせよ。
「ありえないことだ」
 苦笑混じりに呟いた声は、重い石像が移動する音と、九龍の嬉しそうな声に遮られ、彼に届く事はなかった。

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