「いやー、弟子二人並べて俺様ってば幸せもんだなー」
 普段とは違い髪を後ろに撫でつけた姿のプロイセンは、眼前に並んで座る二人を見て満足そうな笑みを浮かべた。
「プロイセンさんはそうしていると、ドイツさんのお兄さんという感じですね」
「あ? 俺様はいつだってヴェストの兄だぜ」
「威厳が無いとはっきり言ってやったらどうだ、日本」
「テッメ……ヴェスト! 家帰ったら覚えてろよ!」
 声を荒げるプロイセンに何事かと周囲が視線を向ける。
「公共の場でくらい静かにしてくれ」
「……ヴェストのくせにお兄様に指図するたぁ良い度胸だ」
 ケセっと引き攣った笑い声を上げて、プロイセンの赤い瞳が険呑な色を滲ませる。
 放っておいたらどこまでも加速しそうな兄弟喧嘩を面白そうに眺めながら、日本は改めてプロイセンを見遣った。
 青と赤、金と銀。髪型が揃いのせいか、こうしてみると本当にプロイセンとドイツは対の関係なのだと思う。どちらがかけても成立しない関係は、孤立を好んできた日本からしたら少しばかり羨ましく感じた。
「日本、お前もなんか言ってやれ」
 隣と前から同じ台詞を告げられ、思わず口元が綻ぶ。
「痴話げんかは犬も食わぬと言いますので」
 にっこりと微笑めば「お前もヴェストの味方かよぉ」と情けない声が上がる。
 すっかり一人楽しいモードのスイッチが入ってしまったプロイセンの憂鬱を払うかのように、「お待たせしました」とオーダーしていた品物が運ばれてきた。
「……」
「……」
「ん?」
 当たり前のように置かれたチョコレートパフェ。
「お召し上がりに……なるんですか?」
 プロイセンが甘いもの好きだとは知らなかった。しかもこのような往来で女子が好みそうな物を口にするなんて。
「たまにはなー」
 プロイセンは黙っていれば格好良い。それは誰もが認めることだ。そして物を食べている間は基本的に喋らない。つまり……格好良い男性がチョコレートパフェを口にしていたとしても、そこまで違和感を感じることは……ない、だろう。
 眼前に座る二人の気配をものともせず、プロイセンは長めのスプーンでひょいっとクリームとアイスを掬い上げ。
「ほれ」
「!?」
 こともあろうにドイツの方に差し出した。
「に、にににに兄さん!?」
「お前この間、ここのパフェの味が気になるって言ってなかったか?」
「そ、それは……っ! ここで言うべきことではないだろう!」
「ぇー? 別にいいじゃんかよ。日本相手に気ぃ張ってどーすんだ」
 ほれほれ、と口元にスプーンをちらつかせるプロイセン。絶対わざとだ、わざとに違いないと思っているのに、本人に揶揄するような色は浮かんでいない。
「早くしないと溶けて汚れるぜー」
「……」
 汚れるという単語をわざと使えば、案の定ドイツはしぶしぶといった感じでプロイセンの差し出したスプーンを口に入れた。
「で、どうよ?」
「……美味いな」
「そりゃよかったな。ほれ」
「!!!!!」
 再度出されたスプーンに、ドイツの顔が赤くなり始める。幸い夕食時ということもあって、こちらを気にするような外野がいないだけ救いだった。
「ヴェースト。お兄様の飯が食えねーってのか?」
「貴方が作ったわけではないだろう」
「注文したのは俺様だぜ」
 プロイセン相手に口論しても無駄だと観念してドイツが口を開けば、隣に座っている黒髪の友人の目が一瞬キラリと光ったような気がした。
「お二人は仲がよろしいんですね」
 羨ましい限りです。と微笑む日本が、何か凄い速度で右手を動かしていたが、それもきっと見間違いなのだとドイツは差し出されたスプーンを銜えた。






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